翌朝取りたて野菜の朝食を終えて、持ちきれないほどの土産を押し付けられ、二人は寝ぼけ眼でバス停のベンチに座りバスを待っていた。 「……そいやお前、俺のことをどう伝えてたの?」 ベンチに浅く座ってだらしなく足を投げ出し、目を閉じたまま、相嶋が抑揚のない声で尋ねた。その脇の紙袋は「帰りに渡すように、奥さんと義母さんから言われてんだ。持ってけ」と土産に持たされた米がぎっしり詰まっていて、ここまで運ぶのも一苦労だったしろものだ。 「『同期を連れて帰る』とだけ書き送った気がする」 「なるほどね……」 小さく呟いて首を持ち上げ、薄く眼を開ける。相嶋が受け取ったのと同じ荷物は、どこからどう見ても一家への土産量ではない。 「そいつと一緒に住んでるんだって伝えといたら、もうちょっと気を使われなくて、済んだんじゃねーの?」 そう言いながらパシパシと袋を叩く相嶋に、ベンチに横座りして肘杖をついていた磐佐が、ゆっくりとした覇気のない口調で答えた。 「わざわざ書き送るまでもないだろ。あとから手紙を読み返したら、気付くかもしれねぇけどな」 「へぇぁー……」 眠そうな声で生あくび交じりの返事をし、相嶋が再び目を閉じる。椅子の背に肘をついていた磐佐も、ゆっくりと目を閉じた。 居宅を離れてまだ3日目だ。しかし二人とも、妙に身体が重かった。日程の半数は実家だったことなど、二人には何の意味もない。 磐佐が深く息をついて、目を閉じたまま低く呟いた。 「なんかさ……実家に帰るのって、疲れるんだな」 職業柄、普段はゆっくりしていられない。日帰りがいつもの行程なのだ。それでなければ農作業に追われ、疲れているのが当然だった。まさか、何もしなくても気疲れるものだったとは。 「いやー……今回は俺がいたからじゃねーの? 気ぃ遣わせたか」 「いまさらお前に遣う『気』なんか、持ち合わせがねっての」 相嶋の声を一蹴し、緩慢な脳味噌に喝を入れて思考を巡らせる。 「俺のは、旅行が終わって帰るときの気分なんだよ。お前こそ大分疲れてんのな。俺んちで、気遣ったのか?」 「いや、楽しかったよ。……いやでも、確かにな。旅行から帰るときの気分ってのは、……なんか分かる」 相嶋も目を閉じたまま、ぽつりぽつりと低い声で答えた。 何の束縛もなく、楽しむだけ楽しんで、あとは帰るだけだ。楽しかったのは事実だし、帰りがたいというのも本当だ。しかし全身を包む倦怠感は、いかんともしがたい。 「……やっぱりウチが一番好きだー……」 「俺もだな。早く帰りてぇ……」 二人の声が、低く行きあった。 「……ぷっ」 「……ははっ」 途端、どちらともなく笑い声が漏れた。 二人にとっての『故郷』はすでに、生まれ育った場所ではないらしい。 時間に拘束されて、上からの命令に従って、軍という機械の一部品として一日を終え、布団に入り、また起きて、時間に拘束されて。 「……まいったね」 「ホントにな」 そういう生活も、合っているかもしれない。 遠くから、バスの音が聞こえてきた。 |