同期がまた一人、父親になったらしい。 思えば会った最初からそわそわと、なにやら挙動が妙だった。 「貴様、なにかあったのか?」 そうやって水を向けてしまったのは自分である。嬉しそうに写真を見せてくるのを、うっとうしがるわけにもいかない。 見せられた写真は、豪奢な着物に包まれた赤ん坊だった。女の子なのだという。 生まれたての赤ん坊に器量もへったくれもないが、かみさんに似れば、なかなかの器量佳しになるはずだ。父親に似ないことを祈ろう。 「終戦の日に生まれたんで、了子。一姫二太郎っていうからな、次は男児だ」 そんなことを言う頬が完全ににやけている、長女を猫可愛がりしているのは明らかだ。 「ケーエーを持つのもいいもんだぞ」 「ほう、そうかね」 「カカアってより妻だな、新妻。可愛いぞお」 カカアの頭文字で、KA、すなわちケーエー。 それにしても聞いていれば、妻の話、娘の話、妻、妻、娘。口から出てくるのは家族のことばかりで、会ったこともないのに、しまいには知り合いのような気がしてくるから不思議なものだ。 ……他人にそこまで愛着をもてるなんて、自分にはないから、少し羨ましい。 そう言ってみると、なぜかにやりと相好を崩して返された。 「そう思うなら、貴様もマリッてみたらどうだ」 「結婚ねえ……そこまで他人を好きになるなんて、想像できねえな」 「好きになってみないと、こればっかりは想像すんのは難しいだろうな。だから試しにマリッてみるんじゃねえかよ」 「うん、いや、やめとく」 いいなと思うのと、したいと思うのは別物だ。羨ましくはあっても相手を探そうとは思わないから、見合い話も蹴り続けている。 「そうかー? 勿体ないぜ、未来の高給取りのくせに」 「そんなにいい身分でもないさ」 「俺らの同期じゃ、あと何人が結婚してないんだ? もうそんなに居ないんじゃないのか」 「いや、村山もまだだし、相嶋だってこの間見合いを蹴ったらしいぞ」 「でも少数派だろ。いくらお前だって、探せば相手の一人や二人いるって」 「探す気なんかねえもん」 要するに、幸せそうな様子は羨ましい。 しかしだからといって、自分まで結婚する気は毛の先ほどもない。 たったそれだけのことがどれだけ不審を呼んだのか、真意を解するやいなや、新米親父の同期生は眉値に深いしわを寄せた。 「じゃあいったい何を守るために命を懸ける気でいるんだ?」 「なんだろうな」 まるで存在意義を問われたような質問に、思わず笑った。 「……ま、貴様も未来の嫁さんを守るために、職業軍人になったわけじゃないんだろ?」 そういうことだ。 そういうもんかねえといまだ納得していない様子を見、続けてまだ彼の手中にある写真を見やる。 「うん、まあ、羨ましいけどな」 じゃぁ俺は、お前のケーエーとその子と、その父親を守るためにでも頑張ろうかね。 そう言ってやると、相手はなぜか鼻息荒く「この子は俺が守るんだ、貴様なんか近づけるか!」と言い放って、磐佐は思わず怪訝な目を向けた。 「お前はせいぜい、自分の身でも守ってろ」 ついでのように言い足されたその言葉を聞いて、首を傾げざるを得なかった。 つくづく、わからない。 |