読まれなかった書簡

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磐佐へ


 万一の時のため書き残しておく。俺の心中に過ぎないが、このようなことを書くのは褒められたことではないので、人に見られないよう注意されたい。
 貴様がこれを読んでいるということは、俺はもう死んでいるのだろう。貴様宛ての遺書とはなどと怪訝に思うだろうが、気が向いたら続きを読んでやってくれ。

 俺は、自分が早々に死ねるならそれで良いと思っている。俺が生きていたら立てただろう手柄は貴様に譲ってやるから、心して受け取れ。
 貴様はボンヤリしていることが多くて、追い詰められないと力を出さない癖があるだろう。しかしやれば人並み以上に出来るのも俺は知っている。俺がいなくなったら、磐佐のそういう所を見抜いて上手く使って呉れる相手を探すといい。ただこの世情で今のように余裕がなくては、そんな相手を探すのも困難かもしれない。だから世情が落ち着いて余裕が出来るまでは、精々生き延びることだ。
 それから一つ、貴様に頼みたい。実家の父や弟達に、倫太郎は人生を楽しんでいたと、貴様の口から伝えて欲しい。其れに就いては磐佐が一番知っているのだから、貴様が伝えに行って呉れなければ意味がない。面倒を頼んで申し訳ないが、死んでいった奴の願いだと思って宜しく頼む。
 あの世で会った時には、年を取ると云うのがどんなものか教えてくれ。もっと言いたいことがあった様に思うが、ここいらで筆を置きたい。
 元気でやれよ。


相嶋 倫太郎


※破リ捨テラレリ



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