合同葬儀の席に、相嶋は例の上司と二人で出向いた。 当初は一人で参列する予定だったのだが「随伴するように」と指示を受け、しぶしぶ待ち合わせ場所に足を運んだのだ。といって特に親しい相手が亡くなったわけでもなく、そもそも相嶋本人にしてみれば、友人の同僚という繋がりくらいしかない。 上司が何かもぐもぐ言っていたような気もしたが、記憶に残らなかったということは、どうでもいいことだったのだろう。 葬儀の場につくと、彼自身にもすぐに故人の為人は察せられた。 (ずいぶん……慕われてたんだな) しみじみと辺りを見回すと、線香の香が鼻についた。 常に死と隣り合わせの職であれば、誰しも何らかの形で、自分や同僚の死は覚悟しているものだ。 しかしその場には、殉職を讃える空気など、ほとんど存在してはいなかった。そこかしこに嗚咽の声が漏れ、すべてが悲愴感に満ちていた。 (いい奴らだったんだろうな……) 形だけの参列者など、ほとんどいない。せいぜい相嶋の隣に立つ、この上司くらいのものだろう。他の誰もがその犠牲を嘆き、悲しんでいた。 いまさらながら磐佐の怒気の原因を感じて、相嶋は自分の拙さを思い知った。 「……無神経にもほどがある、か」 そっと遺影を見回してみる。 幾枚も並ぶ写真の笑顔のほとんどが、かつては彼と生活を共にしていたのだ。 これほどに悲しんでもらえるということは、本当にいい仲間だったのだと思う。そんな彼らを、一時に亡くしたのだ。ここで肩を震わせている者たちに劣らず、磐佐も悔しかったろうし、悲しかったはずだ。 磐佐が事故の数日前に移動になった経緯を、当人と別れた後、相嶋は人づてに聞いていた。あと数日移動が遅ければ、彼も一緒に死んでいたかもしれず、逆に事故は起きていなかったかもしれないのだ。 それでなくとも数日前まで共にいた者が『もう死んでいます』と知らされた、その動揺はいかほどのものだっただろう。 「あー……」 かける言葉など、簡単に浮かんでくる筈もない。それでも相嶋は、磐佐を探して、周囲に視線を走らせた。 きっと他の誰より落ち込んでいるだろう。せめて何か一言でも、伝えておきたかった。 相嶋がキョロキョロするのをどう受け取ったのか、隣に立っていた上司は、場違いに薄く笑いを浮かべた。 「見合い相手のお嬢さんも、ほら……そこに参列されているぞ」 耳に口を寄せて、小さく呟く。その囁き声が、いまの相嶋には鬱陶しい。 (ちょっと黙ってくれねーかな……) 誰かを指し示したようだったが、興味は微塵もない。何度も視線を走らせて探しているのも、おそらく相当参っているはずの、同僚の姿なのである。 ……しかしどれだけ視線を走らせても、その姿は見当たらなかった。 同じ軍服姿の弔問客ばかりとはいえ、見慣れた後姿であれば、容易には見逃さない自信がある。 (……あれ……っかしーな……) 小首を傾げて、相嶋は再びざっと視線を走らせた。ついでに庭も振り返ったが、……やはり、いない。 (何かあったのか……?) 焼香の順番が回ってきたことに気付き、遺影の前に進み出る。写真の列を見上げ、他人に合わせて軽く頭を下げた。 心の中でそっと(俺の知り合いが、大変世話になりました)などと呟いてみる。 途端に親近感がわき、再度顔を上げて遺影を見つめたときには、なぜだか古くからの知り合いと対面しているような気になっていた。 |