本音

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 先達て久々に再会した同期から、連絡が入った。
 飲まないか、という。
 戦争の足音が聞こえるなか、機密に通じる彼から連絡があるとは、思ってもみなかった。
 だから、深読みはあえて控え、磐佐は誘いに応じたのである。

「図上演習ばっかりじゃ、士気も下がるしやる気もなくなる」
「っつってもしょうがねーだろ。重油も弾薬も金がかかる、経費節減だ」
 力の抜けた声が、とくに目的地を探すこともなく、宙に漂い消えていく。
「とか言って、結局現場の人間が、あおりを食らうんだ」
 磐佐が輪ゴムを指にかけ、利き手の人差し指で右の壁を狙った。
 背中合わせの相嶋の左手で、ぱしっとゴムが弾け、コップの取っ手をみごとに撃ち抜く。
「いくら隠れて演習つっても、限度がある」
 それを聞いて、相嶋がくつりと笑った。
「っと、聞き捨てならねーな」
 笑みに交えるのは、信頼しているからだ。
 二人とも、暗黙のうちに了解している。
「しかしまぁ実際、お前のことだから、平時でも隠れて訓練してるんだろ?」
 そう言いながら手を伸ばして、相嶋が輪ゴムをぱちりと指に掛けた。
「夜の方が操艦も照準も巧いぞ、俺の周りは」
 このことは黙っていろと言うように、背中合わせに、磐佐がぐぅっと体重を預けた。
 前のめりになった相嶋が、苦しそうにうめく。
「にゃろ、何すんだ、どけって」
「言うなよ絶対。平時はともかく、戦時に前線を追いだされたくないからな」
「他言無用ね、ハイハイわかった、分かったから、早くどけってば」
 相嶋が何度も頷いたのを感じ、磐佐が上半身を起こす。
 自由になった相嶋は、上半身を起こし、大きく息をついた。
 そして右手にゴムを掛け直し、空に向かってゴムを撃つ。
 放物線状の軌跡を描いて、左手にあるコップの中へ、ゴムがぱたりと飛び込んだ。
「いざってときに動ける奴が多いのは、悪いことじゃない」
 からかうように言いながら、相嶋がゆったりと軽く身体を後ろに預ける。
 それを聞き、磐佐が少し空を仰いだ。
「当分また、心配の必要がなくなるといいんだけどな」
「願わくば、か」
 隠れた言葉を取り出して、相嶋が口中で転がした。
 磐佐はそれに直接答えることはせず、背中越しに言葉を投げかけた。
「凱旋でも敗戦でも、何でもいいな。此処だけの話」
「うん」

 声は聞こえど、姿は見えず。
 声が交差して、夜の空気にとけていく。


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