成功例

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 相嶋が自分の額をこするのを、磐佐は横目で観察していた。
「うんまぁ、そういう女だって解ってるから声掛けたんだけどなー」
 心に傷を負ったのではないことくらい、長年の付き合いで分かる。どうやら構って欲しいようだ。
「そうかそうか」
 徳利二つ、猪口二つを指に挟んで、相嶋の隣へ歩み寄った。
 自分の脇へ、ささやかな酒席を設ける。空いた手で肩を軽く叩いてやると、相嶋は抱え込んだ両膝の中に自分の顔をうずめ、背を小さく丸めた。
「――……気にすんな」
 あまりに小さくなっている様は、磐佐にとって初めて見るものであった。もしかしたら、多少はフラれたことを気にしているのかもしれない。
 低く声をかけると、相嶋も低い声で反応を返した。
「……あぁ」
 これは、本当にダメージを受けたのか。
 再び肩を叩くと、相嶋は身体を傾がせて、磐佐の肩に頭を預けた。
 ずしりと重い。この重さが、彼の頭部の重量なのだ。そう思うと、なぜだかむしょうに落着かなくなり、磐佐はわずかに肩を揺らした。
 いつか、この脳味噌に手を借りる日がくるのかもしれない。
(……それは、楽しみかもな)
 とりあえずいまは、自分が相嶋を預かる番なのだろう。
「一晩、お前の気がすむまで付き合ってやるって。気ぃ落とすなよ」
 猪口に酒を注ぎながら言うと、相嶋が少しく顔を上げた。
「あーぁ……誰か気の利いたヤツはいねーかなー……」
 突然、何を。
 磐佐が僅かに首をひねり、相嶋を振り返る。
「誰か気の利いたヤツが、お姉さんとかそのへんを紹介してくれるといいなぁ」
「……いねぇだろうな」
 己のことを言っているのだと気付き、磐佐は遠くを見た。
 男を自分の手足と思っているような人間である。何にしろ、紹介できるような姉でもないし、複雑な人間関係は好むところではない。
「世間は冷たいな……」
 相嶋の恨みがましい声に、磐佐は思わずくつくつと肩を揺らして笑った。
「そうでもねぇだろ」
「ん?」
「ほらよ」
 顔を上げた相嶋に、磐佐は笑って猪口を差し出してやった。自分まで冷たいと、口が裂けても言わせるものか。
「今日はお前のペースに合わせてやる」
 じっくり、時間を掛けて呑もう。
 言外に含ませると、相嶋も笑って、指を伸ばして猪口を受取った。
「おぅ、酒量は覚悟しとけ」


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