生徒達 9

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 ――明日から春休みである。

「……結局、試験なかったな」
 なけなしの荷物を鞄に詰め込む背中へ、相嶋が低く声をかけた。
「あん?」
「だから試験だよ試験。結局それらしいのは、全然なかったよな」
 あれから何事もなく、数週間が経っていた。
 当然ながら、期末試験らしいものはあった。しかし現在までのところ、酷い点数に学年全員で拳骨をくらった以外、なにも起きていない。
 何十人も殴る方が大変だろうとぼんやり考えていたところで、パンパンの鞄を閉めようと奮闘していた磐佐が振り返った。
「試験?」
「そう、試験…………え、不穏な噂あっただろ?」
 そう言ってみたが、磐佐が何かを思い出した様子はない。きょとんとした顔を見て、相嶋は思わず口をぽかんと開けた。
「……お前の頭は、ザルか何かなのか? それとも拳骨の当たりどころが悪かったか?」
 険を含めずに言葉を交わすようになったのも、ここ数週間のことである。しかし、あるべき礼は最初に失い尽くした。
「あぁ……あんな点数、もう忘れさせてくれ」
「……そこじゃないって言っても、通じねーんだろうな」
 小さく笑って立ち上がり、軽く頭を小突く。
「なんだよ」
「痛かねーだろ」
 笑って言い捨て、部屋を出た。
 背後で留め具の壊れる音が聞こえ、何かが床に落ち、続いて低い呻きが背中に追ってきた。
 彼の同期は、まったく面白い奴らしい。



 試験の噂が、実は一つ上級の者たちによる、意図的なデマ情報だったこと……――彼らがこの真実を知るのは、十年以上も先の話になる。


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