目を凝らせば確かに、雨音と波の音、その向こうに彼らはゆっくりと、漕ぎ寄って来ていた。 それを見て、船中につかの間の睡眠を取っていた兵たちは、慌てて飛び起きた。 その日の昼間には、村上水軍が毛利へ援軍を差し向けたばかりである。無論陶晴賢も、村上水軍へ援軍を要請していたことは、周知の事実であった。 「あの村上が、陶をおいて毛利の味方につくということは……まさか、何か毛利に秘策があるのではないか」 誰しもその思いが、多かれ少なかれ胸をよぎっていた。 倍を数える陶軍が、負けることなどあるものか。そう自分に言い聞かせてはみるものの、しかし勝負は時の運。数を恃んで敗れし武将は、歴史に挙げればキリがない……―― そんな最中の軍船である。敵味方も分からない。辺りは一挙に緊張に満ちた。 「何者か! 名乗られぃ!」 鋭い声が響く。弓手が刀に伸び、寸の間息が止まった。 と、雨音を掻き消すような腹に響く大音声が、鋭く暗闇を引き裂いた。 「我ら筑前国より宗像秋月千手、緒を連ねて加勢に参りたるぞ! 此船ども、ここを開け候らえぃ!」 味方か……――! 瞬間、周囲は歓声に沸いた。 「おぉ、よう参られた、よう参られた!」 「はるばるかたじけない、これで我らの勝利は約されたも同然じゃ」 「なんとも心強いことよ、のぅ!」 笑顔が交錯する。安堵の色を浮かべ、船がざぁっとその場を開けた。 船団が静かに、その中心へ分け入ってくる。綱を投げ渡すと、心得たように船を繋ぐ様子が、言い知れない安心感を抱かせた。 「おぉおぉ、その様子では海に慣れておられるのか、なんとも心強い!」 「あいにく酒は出せぬが、勝った暁には、相当の恩賞が出ようぞ」 ざわざわと周囲が沸き立つ。しかし肝心の援軍は浮かれた様子を見せず、一雑兵までもが「かたじけない」「ありがたい」と、言葉少なに応えるばかりである。なんとも、練兵の証ではないか。 戦の緊張感を失わず、援軍だからと奢ることもない。心強い者達が、味方に付いてくれたものだ。 上陸してきた援軍が、時を待ち息を顰めるのを見て、厳島神社周囲の布陣はにわかに沸き立った。 |