第十四章 包ヶ浦 −2−

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「…………ところで船頭」
 辺りを見回していた元就が、おもむろに顔を戻し、傍の船頭に声をかけた。
「この浦の名は、なんと申す」
「は、この浦は包ヶ浦と呼び、あの山は博奕尾と」
「ほう、『つつみがうら』に、『ばくちお』……とな」
 したり顔で髭をしごく元就をちらりと見て、児玉就方がぼそりと呟いた。
「ご存知であろうに」
「それが大殿のやり方じゃ」
 兄である児玉就忠が、その隣で笑っている。案の定元就は、船頭の返答を聞くやいなや身を翻し、自軍に向かって声を張り上げた。
「聞いたか皆の者! ここは包ヶ浦、あれが山は博奕尾と申すそうじゃ! 鼓も博打も打つことにあやかる名、此度はかならず我らが陶を討つ!」
「……なるほど」
 児玉就方が頷いた。
 元就の声を聞くや否や、それまでは無理に静かにしていたものか、本陣が大きな歓声をあげたのだ。
 負けじと元春率いる別働隊が声をあげ、辺りにこだましている。風雨の音がなければ、その声は陶へ届いたかもしれない。児玉就忠が、恩恵をありがたがるように天を振り仰いだ。

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