わずかに遅れて合流した三男の隆景は、小早川へ養子に入っている。小早川は内海に水軍を持つ、強力な海上部隊だ。 「ここは我ら小早川にお任せ下されませ!」 隆景の言葉に、副将である隆元が笑んで頷いた。 「元春も隆景もまだ幼い気しかせぬが、すでに立派な武将なのだな。隆景が持つなら心配ない」 兄である隆元の言葉通り、桜尾城から厳島へ船を進めるのは、そう難しいことではなかった。 「桜尾城に桂元澄を置け」 元就の言葉に、桂元澄が馬を奔らせる。武力に長け気の合う豪将の到着に、吉川元春は素直に城を預け、父と兄のいる本陣へ駆けた。 そのさ中、元就は児玉就方をも傍へ寄せた。 「お主は、草津城の守りにはいれ」 「草津城でござりまするか」 「あぁ、本陣は桜尾城へ移すことにする。城番を桂元澄一人に任せるのは、なんとも心もとない」 冗談めいた言葉に、児玉就方はしばし逡巡した。 「……決戦の折には、必ず呼んで下さいますな?」 「もちろんじゃ。児玉の家がおらねば、千の兵を失うようなもの」 元就が笑う。それを受けて、ようやく児玉就方も笑顔を浮かべ、深く頷いた。 「では、草津の守りはお任せ下さいませ」 一方で元就は、軍船を厳島に向かわせた。小早川隆景は本陣へ向かったが、別働隊はしっかり仕事をこなし、すぐに厳島は毛利の手へ落ちた。 本陣には毛利元就、その三矢の息子たる毛利隆元、吉川元春、小早川隆景が顔をそろえた。 金山城に赤川元助。 己斐城に己斐豊後守。 草津城に児玉就方。 桜尾城に桂元澄。 内海を前にした城をことごとく手中に収め、ここに毛利の陣立ては完成した。 |