「吉川元春様、熊谷殿と合流、桜尾城を攻略なされた模様!」 細作が伝えていく言葉に、隆元が少しく笑う。 「元春のやつ、こんなに近くに来おって」 「弟君は、今日も腕白でおられるようじゃ。元気そうでなによりなにより」 時を同じくして知らせを聞いた桂元澄が、肩を震わせて笑った。床几に腰かけていた元就が、采配をとって素早く立ち上がる。 「よし、我らも城を出るぞ。次は草津城を攻略じゃ」 「己斐城の城番は?」 先程まで説得にかかっていた児玉就忠が、手袋を引き締めながら訊ねた。命令を伝えようと、細作がその場にかしこまる。 「これまでと同じ、己斐豊後守に任せよ」 元就が低く命じた。 「万が一、己斐豊後守が再び陶晴賢に寝返ろうとも、赤川元助が金山城におる。あやつが抑えてくりょうぞ」 「それに、いまさらここに大人しくしておるような者も、おりませぬでしょうなぁ」 桂元澄の言葉に、児玉就忠が苦笑を浮かべて頭をかいた。 「それもそうですな。私も残れと言われても、今更残る気にはなりませぬ」 「最後の砦である児玉就忠殿がそうおっしゃっては、もう誰も残りますまい」 児玉就忠の隣で、桂元澄の弟である元忠が笑う。 その声にかぶせて、背後から兵たちの歓声が上がった。士気はますます上がっている。桂元忠が視線を声の方へ向けて、「まったく福原貞俊と児玉就方は、一体何をしておるのやら……」とうそぶいた。 「そうは言うが元忠よ、お主も先程、兵どもに発破をかけておったろうが」 「ふん。それを言うなら兄上も鼓舞に参っていたのを、この元忠は見ておりましたぞ」 「よいよい、士気は高ければ高いほどよいのじゃ」 桂元澄と元忠、兄弟の軽い諍いに、元就がおおらかに笑って間に入った。それを見て、隆元がくすくすと笑う。 「まるでいつもの光景だな」 「ほれみろ、若殿に笑われてしもうた」 桂元澄が肩をすくめ、元就が「思い出の語り草に、後々まで大笑いしてくれよう」とからかい交じりに言って、周囲を見回した。 「次なる目標は草津城じゃ。馬をひけ!」 |