前回の評定とは違い、家臣たちが足早に広間へ急ぐと、そこにはすでに隆元が固い顔をして座っていた。そして、みなが集まったのを確認するや否や、まだ元就の姿もないままに唇を開いた。 「みなも聞き及んでいることと思う。……大友から書状があったそうだ」 「やはり……」 まるで予想していたことが現実になったというように、全員が息をはきだした。 「そうじゃ。年寄達の連署が、わしの宿所宛てでな」 いつのまにか姿を現した元就が、そう言いながら隆元のかたわらへ、どっかりと座る。 そして手元の紙を開き、隣に座る家臣へ、廻し読むようにと手渡した。 『陶隆房殿が首尾よく大内義隆を倒したとのこと、お慶び申し上げます……――』 ざっとこのような文面である。 生かしておくと言っておきながら、陶隆房の刃はそのまま、主君である大内義隆の喉笛を掻き切ったのだ。 「わざわざこの元就へ届けてきた意味、みなも分かっておろう」 元就の言葉に、その場に座る全員が、声もなく頷いた。書状が隆元にわたる前に、早々に元就本人が受け取って、それを円座の下へ挟み込む。 陶隆房の反逆に、毛利元就が加担した。責めている文面ではないが、あたかも糾弾されているようだと、その場に暗い沈黙が降りた。 「じゃがこれも戦国の世の習いじゃろう」 その場の空気を変えるように、桂元澄が口を開いた。それを聞き、数人が明るい表情を見せた。 「桂元澄殿、いやさ婿殿、よう言うた」 志道広良が声をあげ、己の膝をぽんと叩いた。志道広良の娘が桂元澄に嫁いでいるからだけでなく、磊落な言葉が、この老武将の琴線にいたくふれたらしい。 「そうじゃそうじゃ。大内義隆殿が討たれたからとゆうて、我らに何の責任があろうはずもない。毛利の仕事は、毛利家を存続させることじゃ」 「それもそうじゃのぅ」 志道広良の言葉に頷く者が、ばらばらと出始める。周囲に影響されてか、その場に明るい雰囲気がもたらされ、みな口々に毛利の展望について話し始めた。 「そうじゃ、これも毛利の繁栄のためよ」 「これまで大内義隆につき従っておったものが、今度は陶隆房になりかわっただけのこと」 「他の家臣はともかく、あやつならば毛利の実力を知っておる。我らを捨て石にはすまいのう」 飛び交い始めた希望的観測に、それまで下を向いていた隆元が、一瞬立ち上がろうと身体を揺らした。 しかしそれにいち早く気付いた赤川元助が、素早く視線を走らせて制止した。 赤川元助は、元来隆元贔屓である。ここで激昂しては、隆元の威信に傷がつく。そのことだけが、いまの赤川元助には、杞憂すべき事態なのである。 周囲が和気あいあいとし始めたところで、再び志道広良が、ふと思いついたように元就の顔を見た。 |