どうしても納得できる小説にならないので、なんかどうでもよくなりました。
時間軸的に、一番最初の部分。顛末。事の発端。

笑うところです












 疲れていたのだと思う。一年近くも禁欲生活を続けてきたところで、溜まりに溜まったものもあった。そのせいだと思った。いや、事実そのせいでもあったのだ。

 機密に関わってしまえば、簡単に赤煉瓦の建物を出ることも許されない。缶詰にされたせいで長いこと女に触ってないし、男もいけるクチだ、そんなだからますます溜まっていくんだ。そう自分に言い聞かせ、どうしようもない悶々とした心中を紛らわすように、仕事に打ち込んだ。果てに寝不足で倒れて、気付けば医務室のベッドの上にいた。意識を取り戻してしまえば身体はいたって健康、なんの異常もない。少し休めば大丈夫だと、衛生兵が笑顔で部屋を去った。
 そこに精力栄養剤をぶら下げて、見舞いに来たのが彼だった。同時に、気付けば身体がどうしようもなく疼いていた。
 ほらやっぱり……もう長く、吐き出していないから。疲れたからか、それとも寝起きだからだろうか。
「どんな顔して倒れてるかと思えば、ぴんしゃんしてるんだな」
 久方ぶりに見た笑顔に、気付けば身体が動いていた。挨拶もなくベッドに彼を引き倒し、医務室の扉に鍵をかけた。「なにするんだ!」と憤りもあらわにするのを構わず、押し倒したはいいが腕力で勝てるはずもない相手だからと、冷静に利き手の自由を奪っている自分がいた。 「……諦めろ」と、死刑宣告を聞くような諦観と、贈り物でも貰うような高揚がないまぜになって、その台詞を他人のように聞いていた。





 即物的な性欲が満たされて、初めて自分の所業に気がついた。ぐったりとした手首には血が滲み、かなり目に痛々しい。表情を隠していた腕を退けると、瞼は力無く閉じられていた。反応がなく、どうやら気を遣っているらしい。
 黙って戒めを解き、棚をあさって包帯を取り出した。拘束が生んだ擦過傷へ、簡単な応急処置しながら、ぼんやりと考えた。
 衝動だけで抱いたはずがない。これまで顔を合わせていた誰でもなく、見慣れたこの相手だったのだ。性欲を持て余す青二才でもなし、その理由は言わずと知れた。自分は欲情したのである。抱きたいと思ったのだ。
 あぁ俺、こいつのこと好きだったんだなぁ――……
 どんな『好き』でも構わない。好きな事実に変わりはない。
 おもむろに口付けて、手首の内側に濃い痕を残した。暴力だけではない、せめてもの自分の本心だったのかもしれない。ただの自己満足だ、気付かれなければそれでもいい。気付いて傷つけるくらいなら、知ってくれるな。
 むしろこのまま嫌われて、二度と顔を合わせることもないだろう。左手首に残る青痣が、自分の所業を克明にうつしているのだ。
 意識のない身体を清め整え、自分の代わりのようにベッドに横たえた。最後に一つだけ、挨拶のように手に触れてみてから、黙って医務室をあとにした。







 やってるほうはとても楽しい。
 ヤッてる人たちは、どう贔屓目に見ても楽しそうじゃない↑。
 でもやってるほうはとてもとても楽しい。