誘受2
何度イカされたか分からない。
逃げようとしても、身体に力が入らないのだ。
「やっ…も、はなせ、よっ、よる、なって、は、何回する、つも、り、んあっ」
「何回っても、俺まだ2回しかイッてないんだけど」
伊多の不満そうな声に、思わず逃げるように腕を張る。
「二回、なら、じゅうぶ、だろっ、俺、も、ムリッ…」
「何日ヤッてないと思ってるんだよ。…じゃ、せめて、…手でヤッて?」
試験期間中は手出し無用と言ったのが、こんな形で解消されるとは、思いもしなかった。
涙の冷たさが残る目尻で、じろりと伊多を睨みつける。
「テストなんだからだから、しかたない、だろっ、この…握りつぶすぞ」
「にっ…?!…でも、俺だってテストだったんだぞ…」
「だから、お互い様、だろっ、テスト終わったからって、一気に、盛るなっ」
そう言いながら身体を起こそうとすると、再び伊多が身じろぎして、思わず槙は硬直した。
「でも彼女持ちのヤツは、皆デートの予定入れてたぞ。それに、幸から誘ってくれるなんて…あっ思い出したらまた…」
「それは普通だろ!って、おまっ…際限なしかよっ」
のしかかってきたのを何とか腕で圧し返し、掠れた声で応戦する。
「俺はまだ2回しかイッてないんだって言ったろ。それに若いんだし、彼女とヤんのが普通なら、これも普通だと思うけどな…」
「お、女の子は、そういう体だけど、そうじゃないのに受け入れてる、俺の体を考えろよっ」
そう言いながら再び身体をずらすと、今度は伊多は、まるで置いて行かれた子犬のようなさびしげな眼をして見せた。
いつもはこの目付きに弱い。
しかし今回は、あっさりほだされるには、槙の身体は限界にきている。
「女の子よりヘバるのが早いのは、なんにしろ情けないと思うぞー…それに、ずーっと我慢してた俺の気持ちも、わかるだろ…?」
「が、我慢してたのはわかるけど、そういう風に出来てる体じゃないんだから、へばるの当たり前だろ!」
「そんなに気持ち良かった?そんな身体じゃないから、あんまり良くないかもって思ってたんだけど…取り越し苦労だったかな」
伊多の言葉を聞いて、感じていた事実を認めたことに気づき、思わず頬が熱くなった。
「き、気持ちよくなきゃ、するもんか!」
「そっか、なら良かった。…で、もう一回、…ダメ?」
伊多の目が、再び置いて行かれた子犬のようになる。
ここでほだされるわけにはいかない、そんな危機感が、槙にその行動を取らせるまで、1秒とかからなかった。
「っ!」
「…………〜〜〜〜〜!!!」
手を伸ばし、反応していたものを、渾身の力を込めて握りしめた。
瞬間、伊多の身体がゆっくりと傾ぎ、その場に倒れ込んだ。
震える両手でゆっくりと身体を起こし、ちらりと一瞥する。
「…起きてくんな」
小さく呟いて、じろりと目に険を含ませたが、彼が反応することはなかった。
……あれから1時間が経とうとしている。
「だ、大丈夫か…?」
微動だにしない伊多に、風呂上がりの髪を拭きながら、槙は恐る恐る声をかけてみた。
「起たなくなったら、どうしようか…」
小さな声が聞こえる。生きていることに安堵して、そばにしゃがみこんだ。
「お前のそれは、強く握ったくらいでダメになるようなもんか?」
「男の急所だぞ…しかも最終形態だったときにだ…なんか、赤くなってる気がするし…見るか?」
もぞりと伊多が動く。
「…ちょっと待ってろ」
死にかけの伊多を制して身体を起こし、ぱたぱたと部屋を横切って、取ってきたものを例の箇所にあてがった。アイスノンである。
「ほら、よっ」
「ーー!」
冷却効果がダイレクトに響いたらしく、わずかに身体を起こしかけていた伊多が、再びその場に撃沈した。
「効いただろ?今ので勃ったんじゃないか?」
「…なんか、全身冷えてきた気がす…へっくしゅ」
「風呂沸いてるからあったまってこい」
無造作に言って、パサリとタオルをかけてやる。
「なんか染みそうだしさ…手であっためてくれたほうが…」
「別に傷ある訳じゃないんだ、しみりゃしないって。手なんかで暖めたら結果がわかりすぎる」
これ以上その気になられたら、本当にこちらの身が持たない。
「でもこんなになったのも、元はと言えばお前のせいだろ…」
「お前が無茶強いるのが悪い」
「誘ってきたのはそっちのくせに……」
ぶぅぶぅと文句を言い続ける伊多に、再びアイスノンを中ててやろうかと手を伸ばすと、さすがに危険を感じたのか伊多がふらりと身体を起こした。
「誘ったけど、次々ヤりたがったのはお前だろ」
「だって、嬉しかったんだよ……あ、一緒に入るか?」
「…背中くらいは流してやるから呼べよ」
自分はさっき入ってきたばかりだ。
お前もとっとと入れと風呂場に押し込んだが、しばらくごとごと音を立てていた伊多は、シャンプーで泡だらけになりながら再び顔を出した。
「ついでに頭も流してくれ」
「……自分でそこまでやったんなら流せよ。ついでに床濡れるから出てくんな」
「冷たいな…。…晩飯どうするー?」
不満げに風呂場へ戻っていった伊多が、あけっぱなしのドアの向こうから叫んだ。
「出前でもとるか?」
「……エプロンあるぞ?」
再び顔を出した伊多は、すでに下着を履き終えて、頭からぽたぽたと水を垂らしている。
「…作る気力なんかないぞ、誰かさんのせいで」
「いや、着てくれるだけでも…。…んー、なに食いたい?」
「普通に服の上からならしてやるけど。なに、作ってくれんの?」
裸エプロンなんて言い出された日には、身の危険再び、である。機先を制してはみたが、伊多はあっさりと、エプロンから矛先を変えた。
「お返し、期待してもいいか?」
「………出前にするか。なにがいい?電話するぞー」
さっさと携帯を取り出して、検索をかけた。
「…膝枕で食えるものがいいな」
「のどに詰まらせても見守っててやるよ」
「膝の上でか…うん、悪くないかな」
どこまでも膝の上にこだわる伊多に、いい加減にしろとため息が漏れる。
「……じゃあ、詰め込んでやるよ」
「…計画的に殺されるの?そこまで恨まれてたとは…」
「つめたっ…頭ちゃんと拭いたのかよ!」
「取り合えず拭いたよ。…なに頼むの?」
槙の肩へと顎を預けて、伊多が携帯を覗き込んだ。風邪をひくぞと言いかけたが、体力がここまで有り余ってるようなら、風邪の心配をするほうが阿呆らしい。
「なにがいい?」
「肉!」
「じゃあ、牛丼とかカツドンとか…」
「精力つきそうなほうにしようぜー」
「お前は有り余ってるだろ…」
いまさらつける必要なんかないだろと、じっとメニュー画面を眺めていると、伊多の吐息が耳元にかかった。
「うん。だからさ……」
「んー?」
丼モノのデリバリーも探せばあるんだなと、携帯画面を眺めて考える。
と、突然伊多の手が、ゆっくりと槙の身体を抱きしめた。
「……幸が食べたい」
「っ!」
「だから、精力つきそうなほう、幸が選んでいいから」
「……今日はもう、しないぞ」
ぼそりと呟く。一瞬伊多が気落ちしたように腕の力を抜き、ほっと安堵した……のが、間違いだった。
「…じゃ、明日のぶんの体力、今日つけとけよ」
「なっ、あ、明日!?そんな連日…!」
「ま、明日のことは明日決めようぜ。…で結局、何にした?かつ丼?俺は食えればなんでもー」
さらりと話を流したあたりに、本格的に危機感が募る。同じ屋内にいたのでは逃げられない。
「……明日、友達んとこ泊ってくるわ。じゃあ、かつ丼にするか」
そう言うと、突然伊多が黙って携帯を取り出した。
「…………」
そっと傍から文面を覗き込む。
『幸が浮気宣言しましたどうしよう』……しかも宛先に『有泉先生』という表示である。
「何してんだよっ」
槙は思わずその頭をはたいて、その場で大きくため息をついた。
「たまには友達と騒ぐこともあるだろが。ったく、なんもしないって言うなら帰ってくるけどな」
「あっ…。……分かった。浮気されるよりは、そっちの方がいいしな…」
はたいた瞬間小さく声をもらし、伊多が携帯をじっと見つめた。しかしそれよりも、その後の言葉の方が、槙にとっては問題だった。
「は!?浮気って…友達と騒ぐだけだって!馬鹿じゃないのか…」
「何があるか分からないから、心配なんだよ。幸、可愛いしさ」
「……お前は俺の親か。過保護だな…」
じっと見つめられて、思わず逃げるように顔をそむける。しかし、熱くなった頬をとらえ、柔らかく唇を重ね、伊多が小さく囁いた。
「親はこういうことしないだろ?」
「あ…!?か、可愛くないし、そんな手出すやつなんかいるわけないだろっ」
「ほらその反応も可愛いし。…ってか、可愛くないと、こんな何回もヤりたくなんないだろ」
慌てて伊多から離れようとする。しかしすでに腕の中に閉じ込められて、どうやら逃げ場はない。
「か、可愛いだけでヤりたくなるのかっ!だったらどっかで発散して来い!」
「…俺が他のヤツに行っても、気にしないんだ?」
伊多の声に、元気がなくなる。
「お前が過剰反応過ぎるんだ」
(案外独占欲強いのかな…本人もわかってないみたいだけど)
そんなことを考えながら、抱きしめた腕に身体を預けると、伊多がすりすりと頬をすりよせてきた。
「過剰か?でも好きなヤツと一緒にいたいしヤりたいのは、普通のことだろ…」
「…今日はなんだよ、随分甘ったれだな」
槙より長身な伊多の甘えっぷりに、小さく笑う。
「テストで不足したのを補充してるだけだ」
「なにもしないって約束するなら、今日は一緒に寝てやる」
ふてくされたような声に免じて、抱きしめた腕をぽんぽんと叩くと、伊多は素直にこくんと頷いた。
「ん、わかった」
「よし。ほら、離れろよ。電話するから」
戻
槙にゃんが積極的だったのは、テストの山がはずれて落ち込んでただけでした(笑)
きなうしさんとのツイッターログ加工ブツ。
きなうしさん以外は、転載はご遠慮ください……(続きがあるなんて口が裂けても言えない)