相嶋は、島崎が思っていたよりも、余程軽く頷いた。 「ええ、みたいですね」 彼が旧知の生死について、こんなにも軽く言葉を発したことに、島崎のほうが驚いた。 あの報せから、まだそう日は経っていない。それでも、すでに気持ちの整理をつけたというのだろうか。 「……意外にあっさり言うな」 「偶然、最初の連絡の場に居合わせたんです」 見せられた苦笑いに、「そうか」と呟き目を逸らす。仕方がないとでも言うような、そんな表情が見たいわけではない。 ……――彼の親しい友人が、作戦遂行中に殉職した。 戦端こそ、まだ開かれてはいない。とはいえこの一件で各国陣営は、一触即発の雰囲気を醸し出している。世界は現実味を帯びた戦争という可能性に、それぞれに神経を尖らせているらしい。 「国際史の一端ですよ。言っちゃなんですが、贅沢ってもんです」 「……貴様らしい言い草だな」 「大きな声じゃ言えませんが、20人程度の命で済んで、運が良かったですね。万一沈められていたら、20や30なんてもんじゃなかった」 「数の論理、か。……あまり言いふらすなよ」 「承知しています。でも30人と300人じゃ、比べるべくもありませんから。それでなくとも砲塔に被弾して、下手に誘爆起こしたりする可能性を考えれば、まあ妥当なところでしょう」 ……相手の口数の多さに、島崎は間違いなく救われていた。相嶋の言葉を聞きながら、ひそかに安堵を覚えていたと言ってもいい。 かの人物は、島崎にとっても馴染みがあった。学生時代から知っている。慕わしげに寄ってくる後輩は、ときには鬱陶しくもあったが、決して嫌いではなかった。 その彼が死んだと聞かされたことは、いまだに心臓を鷲掴みにしている。 押し殺している動揺を、他人のものとして受け止めきれるほどには、気持ちの整理がついていなかった。 「とにかく戦争にはならないでしょうが、賠償で揉めますね。どれだけ軍費にくるかは謎ですが」 「金はないまま、防御の要求が厳しくなりそうだ。艦政本部が泣くな」 「情報統制の責任追及もできそうですしね。後藤が先例集めに巻き込まれたそうですよ」 目の前で涙を見せられたら、自分も堪えきれる自信はなかった。 しかし素直に人前で泣くように、島崎はできていない。 相嶋の冷静で軽い物言いが、ただなんとなく、ありがたかった。 |