動転する我らが日常

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「なぁ」
「うん?」

 ぽつり。

「もしさぁ」
「あぁ」

 ぽつり。

「俺が死んだらどうする?」



 ぽつり。



「……いきなり何言い出すんだ、キモチ悪い」
「いーから、真面目に答えろよ」
「…………んじゃぁ、線香上げに行ってやるよ」
 苦手な書類から顔を上げようともせず、磐佐がぼそりと言葉を返した。目を細めて、じっと手元の文字を見ている。
 書類の文字が細かすぎて、まるで虫が飛んでいるようだ。
「あーそーかよ」
 尋ねた自分がバカだったと、椅子に馬乗りになった相嶋が、そっぽをむいて肘杖をついた。
 もう少し、面白い返答が聞けるかと期待したのに。
 突き出した唇から息を吹き出して、不満気に唇を鳴らしてやった。……しかし磐佐は、顔を上げようとはしない。
「じゃー、薔薇のお香を持ってきてくれ」
 馬乗りになった椅子を傾けてぎぃぎぃと鳴らしながら、相嶋が磐佐の背中に語りかけた。語りかけながら、同朋の背中をしげしげと観察する。
 あの軍服、洗濯で縮んでんじゃねーのか? まぁガッシリ感演出にはもってこいか。……ふんふん、あれでアイツ、結構ゴツいよな。ハゲるの気にして髪上げたんだっけか。アイツ絶対、髪ィ下ろしてる方がいいのになー、あんな野暮ったい恰好してたんじゃなぁ……。

「……何だよ急に」

 ぽつり。

 後ろ姿が、微かに揺れた。
 上半身をひねって、磐佐が振り返った。
 突然変なこと聞きやがって、気になるじゃねーか。
 二人の視線が交錯し、思惑の混じった視線が入り混じり、ふと、相嶋が表情を失くした。

「いや……実はな」
「あぁ」
「実は……最近――……」

「……」

「――……いや」

「……なんだよ」
 突如首を振って顔を背けた相嶋の態度に、磐佐は眉を顰めた。
「……何でもねぇよ」
 何でもないと言われれば、余計に気になるではないか。
 先程は突然、自分から何を聞き出そうとしたのか。何を言い出したのか。
「さっきの質問といい…………お前、何かあんのか」
「何もねぇよ」
「嘘吐け」
 磐佐の低い声を背に、相嶋は再び、ぎぃぎぃと椅子を鳴らした。


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