相可変

Back - Index - Next



 相嶋の誘いに乗り散歩に出たのは、卒業も間近に控えた、ある日のことだった。
 厳しい寮生活の身にはいい気晴らしで、噂話や趣味の話、下らない冗談に、1時間があっというまに過ぎた。
 そして、さてそろそろ帰ろうかというころ、磐佐の口から疑問が漏れたのだ。
「なんで、俺と話そうと思ったんだ?」
 いまさらながら思い返せば、相嶋とは、散歩に誘いあうような仲ではない。
 親しいといっても、種類があるものだ。
 言ってみれば二人は悪戯仲間で、話していれば「何の悪だくみをしているのか」と周囲に勘繰られるような交遊関係なのだ。格別、二人で遊んだこともない。
「ん? お前、いつも一人だろ」
「……あぁ。寂しそうに見えたか?」
 一人と呼ばわる相嶋の真意は、なんとなく分かった。磐佐は普段、周囲とつるまない。しかし相嶋にしても、そんな理由で人に近付くような人間ではないはずだ。
「そんな気を遣われるようじゃ、俺もお終いだ……」
 ふざけて、わざとらしく天を仰ぐ。相嶋が小さく笑い、どんと肩を押した。
「そんなわけないだろ、友達に困ってなんかないくせに。そうじゃなくて、そうだな……お前に興味が湧いたんだよ。それ以外、言いようがない」
「男に興味持たれても嬉しくねぇよ」
「そう言うなって。俺はお前とは、長く付き合っていきたいんだから」
 相嶋が、自分の台詞に一人で笑う。
「長く、ねぇ……お前、普段からそんなこと考えてるのか?」
「まぁな。磐佐は、そんなこと考える必要、なさそうだけど」
 ちらりと意味深に目を向けられて、磐佐はじっと眉根を寄せた。
「その前に、その考えるってのが、よく分かんないな。俺は相嶋と違って、流されるだけだし」
「片寄らないように流されるって、じつは大変なんだぞ」
「片寄らないようにって何だよ」
 濁流の真ん中を流される自分が脳裏で再生され、ますます眉根に力が入る。同じ流されるのに、中心も片寄りもないと思うのだが、相嶋はそこを分けて考えているらしい。
「分からないなら、その方がいいだろ。……俺には絶対、真似できない」
「悪かったな」
 確かに真似されるような生き方ではないだろう。磐佐自身、相嶋に憧れる面があるのは事実だ。
 磐佐の言葉に、相嶋が再び肩を押す。
「これでも憧れはあるんだぞ。何も考えなくても真ん中行けるような、そういうふうなのって、俺にはできないからさ」
「相嶋にそう言われるのは、……なんか、こそばゆいな」
 そう言うと、相手がくすくす笑う。
 相嶋に褒められるのは、何とも不思議な感があった。それでもやはりいまの磐佐にとって、相嶋の考え方は憧れでもあるのだ。


Back - Index - Next




@陸に砲台 海に艦