先達て新庄勢が歩いた道を、本陣が追う。しかし途中から道は別れ、やがて道もなくなり、まっくらな中をひたすら上へ上へ進んでいく。 将も兵も隔たりなく、全員がひたすら重い鎧を引きずり、木々の合間に見える空を目指す。 物を言う者はいない。 この後のことを考えれば、弱音など一切吐けなかった。 いまもこの山裏に、陶晴賢が陣を敷いている。 そしてその陣の裏に、吉川から駆け付けた新庄勢が。 海からは隆景率いる小早川が。 陶の知らない精強な部隊が、深く敵の懐中にもぐりこんでいるのだと思うと、怖いものではなかった。 弱小国人領主であった毛利が、大きく中国へ飛躍するその一歩となるのだ。 そう思えば、むしろ心が躍った。 そして、総大将率いる本陣が、博奕尾の尾根に到達した。 目下に海が見えた。 出発した地である地御前が、瀬戸内の向こうに篝火を揺らめかせているのが見えた。 明るければ鳥居が見えるのだろう。山肌を伝ってもう少しいった場所には、吉川の軍がある。 ――陶晴賢は、まだ、何も気付いていない。 ……――勝てる。 ただその一念を胸に、全軍、元就の采配を待った。 嵐はすでにやんでいた。 夜明けが、近い。 |