第十一章 一夜陣 −1−

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 辺りを気にすることなく食事をすることができる、最後の機会になるかもしれない。
 それを意識しているのか、皆必要以上に楽しげに、箸を動かした。両手を合わせ、食事に感謝し、そして時が過ぎる。
 ――まだ辺りも明るい七ツ時、陣での夕餉が終わった。

 全軍に、三日分の兵糧を持つことが通達された。餅一袋、焼飯一袋、米一袋を各人腰につけること。本隊は山道を登るので、水筒の携帯を忘れないこと。
 続いて、合い印の命令が下る。侍も足軽もたすきをかけ、手拭いで鉢巻をすること。合言葉は「勝」と問うて「勝」と答えること。

 間違いのないように、掌に刻まれた合言葉が全軍に行きわたると、最後に突撃時の相図が下った。

 太鼓の音は三ツ聞き、四ツ目に全軍一斉に鬨の声をあげること。

 必ず、出遅れるな。

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