第九章 手紙 −1−

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 なをなを申候、梅料人ある事に候まま、人躰之事ハそれの御放題にて候へく候、かやうに申候とて、仰天ハあるましく候、申候やうに、陣中の習いにて候まま申事候事候、今度の動かるるとすもし候へ、神領衆又警固三浦なと申候て如此候、口惜候、琥珀に長持おき候、自然の時ハ召寄候へく候、又太刀も琥珀に候、取寄候へく候。
 このかた敵けひいて候て、是非なく候、さりなからさりなからめつらしき事ハあるましく候まま、御心やすく候へく候、陣中の祈祷にて候まま、一筆くたしおき候、この儀御仰天候ましく候ましく候、源太郎もわたり候。
 清水又無量寺対馬諸卜ところへ宛所にて候、梅料人ある事にて候まま、申おくとの事候、めてたき申候へく候、かしく
 九月廿九日   たか兼
           宮嶋より
 こんまいる   たか兼



 娘の梅の夫は、お前の裁量に任せるよ。こんなことを言って驚かせてしまうかもしれないが、陣中の習いで書き送っているだけだから、早合点しないように。
 このたびこうして厳島へ渡らざるを得なかったのは、神領衆や警固越中守三浦の差し金だ。とても悔しく思っている。
 琥珀院に長持ちを置いてあるから、もしものときは召し寄せなさい。太刀も琥珀院に置いてある。これも取り寄せるように。

 こうなってしまってはどうしようもない。とはいえ、大変なことがあるわけではないのだから、心安んじて、決して驚かないようにしてくれ。
 ちなみに、息子の源太郎も厳島へ渡ってきている。
 清水、無量寺、対馬などへ梅の夫について申し置いているので、いざとなったら相談するように。

 九月廿九日     宮島より

 こんへ

               隆兼



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