第六章 決断 −2−

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 今度こそ自分が援軍にと騒ぐ元春や隆景を抑え、元就は直近の家臣に援軍に行くよう命令を下した。
 しかし、
「これだけでは生ぬるいではありませぬか!」
「安心しろ元春。隆元はわしにとっても大事な跡取りじゃ、次の手は打ってある」
 元就の手は、それだけではなかった。
「万が一のことがなきよう、山里に要害を築きたい。山里であれば、敵も捨て置くことはできぬであろうからな」
 隆元と別の側面から敵に睨みをきかせようと言い出した元就の案に、誰一人として反対する者はなかった。
「よき案にござりまするな」
「隆元様の代わりに、いい標的になりましょう」
「兄上がご無事であれば、もう何でも」
 ……陶が繰り出した反撃軍に、隆元が攻撃を加えた。
 ただそれだけで最も心乱れたのは、攻撃を受けた者ではなく、毛利陣営だったと言えよう。


「……しかし、なぜもっとしっかりした武将を山里要害へ入れぬのか……ということで、陣中で論争になり申した」
 状況を報告してくれる児玉就忠の言葉に、金山城の赤川元助は大きく溜め息をついた。
「『この機に忠誠心を試す』とでもおっしゃったのであろう……大殿の言葉が目に浮かぶようじゃ」
「ご名答にござる。さすが毛利の重臣じゃ」
 児玉就忠が笑うと、赤川元助はがくりと両肩を落とした。
「大殿はいつでも大殿じゃな」

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