少しずつ慣れてきた槙の様子を探りながら、彼の芯を扱きあげている最中、気になった。
(……ここ抑えたら、出なくなんのかな)
 そう思いながら裏筋をなぞりあげた瞬間、槙のものが熱く脈打った。
 彼が上り詰めそうなことを掌に感じ、好機とばかりに伊多が指を伸ばす。その根元を強く握り込むと、先端が震え、出ると思われたものが僅かに滲んだだけに終わった。
「やっぱ、ここ抑えたらイけないんだな」
「いたっ……や、やめろ、はなっ……」
 突然のことに、槙がびくりともがく。その耳を舌先で擽る伊多の心中に、悪戯心が頭をもたげた。
(……極限まで我慢したら、どうなるんだろうな)
「も、はな、せ! ぅ……へんに、なるっ」
 握り込まれた痛さか、欲望を達せない辛さか、吐息の下の声が苦しそうに揺れる。
「ふーん、やっぱ辛いんだな…じゃコレは?」
 痛いよりはマシだろうと、手を解いた。
 その瞬間安堵したのか、槙の両足から力が抜けた。
「あ、当たり前だ! んな締め付け、られっ、たら誰だって……あ!? 〜〜〜!!」
 指は解いたが、欲望を達させる隙を与えず、伊多の指先が先端を強く抑え込んだ。
 爪先が割れ目に食い込む。その刺激で溢れそうになったモノが、僅かに溢れ、そそり立つものを伝う。
 快感のやり場を見付けあぐね、思わず閉じられた槙の瞼から、代わりのように涙がこぼれ落ちた。
「泣くなよー……そんなにイきたいのか? ……あ、溢れてきた」
「いっ……ぅ……」
 伊多の目の前で、内股が微かに震えている。溢れそうなものを留めようと、指先に力を入れた瞬間、敏感な場所がひくついた。
 声にならないのか、彼の咽喉が微かにしゃくりあげた。
「そんなにキツいのか? じゃぁもうイくか……」
「〜〜っ」
 あまりに辛そうな様子に、罪悪感を感じて尋ねると、槙はぶんぶんと首を縦にふった。その拍子に、また一粒の涙が、頬を伝って流れおちる。
(おぉっ、素直な反応……)
 普段にない反応に関心しながら、力を込めていた指を解く。そして、指に伝う先走りを絡め、素早く扱きあげた。
 すでに我慢の限界だったのだろう。
 その刺激に彼は両肩を震わせて、勢いよく白いものを吐き出した。



 一通り吐き出してしまった槙がゆっくりと、逃げるように身体を起こした。
「……っ、……試したいことは、これだけ、だろっ……も、離れろよ」
「えー……、俺だって大分キてるんだけどなー……」
「……自分で何とかしろよ。試して見ればいいだろ。辛さがわかるぞ」
 むくれた色を僅かに混ぜて、槙が逃げ腰に言葉を返す。それを聞いた伊多は、不満そうに首を傾げながらも手を離さず、本当に自分の下半身に手を伸ばした。
「俺が一人でヤるのを、じろじろ見てる気か?」
「ちょっ……ヤるならどっか行けっ、いや俺がどっかいく!」
 そんなものを見る趣味はないと、槙が慌てて立ち上がろうとした。
 しかし余韻が残っていたのか、ふらついた瞬間伊多の手が伸びた。そのまま槙の腰が、伊多の手にがっちりと捕まえられる。
「なんだよ、そっちが抜くの手伝ったんだから、こっちも手伝えよ」
「わ、は、はなせ! さっきのは貴様が勝手に……ひ、一人でヤればいいだろ!」
 手伝うというのはつまり、ヤらせろということだ。
 逃げようと試みたが、意外にあっさり組み敷かれた。さらに「見るのが好きなのか? ウーに引かれるぞ」などと言われて、じっとりと嫌な汗が滲む。
「えっ、なにっ……じ自分でするんだろ!? この体勢はなんだ!」
「まだ疼いてるだろ? 一回だけ付き合ってくれよ」
「な、なに勝手なことっ、俺はもうじゅうぶ……んぁ、やめっ」
 槙が逃げるより早く、伊多の指が、吐き出したばかりの芯に絡み付いた。余計な呑み込みだけは早いらしく、指の動きが的確に、冷めかけていたものを呼び覚ましていく。
「前は十分でも、後ろはまだだっただろ?」
「なっ……う、うしろは、別にどうでもいい! 十分だって言ってんだから、やっ……んん!」
 不穏な言葉に、やはりその気かと慌てた。覚悟していないわけではないが、抵抗しないという選択肢はない。
「どうだっていいんならいいだろ。……やっぱイッたばっかだと感度が違うな……」
「ん、あっ、どうだっていいっ、てのはっ構うなって言ってんだ! や、ゆびっ、入れんなっ……」
 伊多の指先が、奥の柔らかな場所に挿し込まれた。少しずつ深い場所を探る感触に、身体が反応するのを自覚して、槙は思わず伊多の肩を強く掴んだ。
「でも指で慣らさないと、痛いだろ?」
「俺、はヤるって言ってな……あっ!」
 さらに深く抉られて、指先が敏感な箇所を強く刺激した。
 瞬間押し出されるように漏れた声に、思わず唇を引き閉じる。しかし伊多は耳ざとく、顔を上げた。
「ここもイイのか。……確かここをこーやったときも……」
「っ、人の話をき、ぅあっ! や……お、俺は玩具じゃ、ないんだぞっ……」
 好きに弄られるのも、それに反応してしまう自分の身体も嫌になる。やけになって吐息交じりの声を荒げると、伊多の唇が耳朶を食んだ。
「まさか、玩具だなんて思ってないさ。ほかでもない槙じゃなきゃ、こんなことしないし」
「……っ、だったらっ、なんでそんな自己中なんだよ!」
「えっ……俺、そんなに自己中か?」
 これだけ好きにしておいて、自分で自覚がないのが腹が立つ。しかしそんな心中とは裏腹に、蠢く指に身体は敏感だった。
「気づけよっ、あ、んあっ」
 二本目の指がやわやわと入り口を押し開くと、痺れるような快感が背筋を掠って咽喉から声が漏れた。快感のやり場が分からず、吐息に混ぜてやり過ごそうと唇を噛み締める。
「大分やらかくなってきたかなー……前はどうする? 自分でヤるか?」
「! ほっと、け!」
 いま何を言っても、まともに聞き届けられると思えない。
 抵抗の力を弱めると、指が引き抜かれたのを感じた。足を開かされると同時に、入り口を熱いものが掠めた。