「薬塗るなら手伝うから」
恐る恐るそう申し出ると、槙がじろりと鋭い視線を投げてきた。
「……動けないんだけどな、誰かさんの所為で。薬は自分で塗るからいい……って此処にないだろ。どうすんだよ」
怒られても、今回ばかりは仕方がない。
もっと落ち着いて、段階を追って乗ってもらうべきだったのだろう。悪いことをした。
「しょうがないな、連れてってやるよ。ほら、おぶされ……いや…だっこの方がいいか」
背を向けたが、足を開かせるのも悪いかと向き直ると、まだ不機嫌そうな槙に再びじろりと睨まれた。
「どっちもいやだ。この状態でここから出ろってのか」
「じゃあ薬貰ってくるから、毛布かぶって待ってろな」
なんと言えばいいだろうか。『槙が痔になって動けないっつーんで、薬もらえません?』……こんなところだろう。
そんなことを考えながらその場を離れようとしたところで、突如ぐいっと服の裾を引っ張られた。
「まった。なんか変なこと言いそうだ。いいから、少し休めば何とかなるから」
「でも薬は要るんだろ? 艦内じゃ座りっぱなしなんだから、早めに治しとけって」
噛んで含めるように言い聞かせる。潜水艦のソナーが『ケツが痛くて座れません』じゃ目も耳も閉じたのと同然だし、だいたい艦長に合わせる顔がない。
しかし槙は、伊多の服をしっかり掴んで離さない。
「そんなに痛くないから! いいからこのまま少し休ませてくれ……少し寝たいから、傍にいろよ」
甘えたような言葉を聞いて、伊多は小さく肩を竦め、ゆっくりとその場に腰を下ろした。
「俺が見張りすんのか? ……ま、そんじゃゆっくり休んでろ。俺も寝るから」
そう言って手近の毛布を引き寄せ、槙の肩へかけてやる。
槙が安心したように眼を閉じたのを見、労わるようにその身体を柔らかく撫でてやりながら、あたりへ目をやった。
毛布を畳み直さなければならない。しかしまだいいかと、再び手元へ目をやり、すでに眠りに入っている髪を軽く梳いてやった。