伊多さん



「やっ、やめろっそこ……っ!」
 妙に色っぽい声に、伊多はおもわず目を見開いた。
「ここ弱いのか? あれ……くすぐってるだけなのに、なんでココこんなになってんの」
「うる……さいっ……誰のせいだと……!」
「え、俺の所為か?」
 相手のそこはズボンの布を持ち上げて、明らかに反応を見せている。わずかに触れると、悲鳴に似た反駁が、槙の口からぽろりと漏れた。
 周囲の客に変に思われないよう、槙が真っ赤な顔で、それでもさりげなく席を立つ。それを見て、伊多も頭をかきかき腰を上げた。
「悪い悪い、んじゃあ責任とらないと」
「じ、自分で何とかするからついてくんな!」
「えー、どうせならさ、自分でヤるより俺がやったほうが気持ちイイだろ」
 そのへんの機微は、同じ男だ、分かったつもりでいる。
 しかし槙は、何がそんなに意外だったのか、伊多の言葉に勢いよく振り返った。
「!! そっそんなの関係ないだろっ!」
「でも気持ちイイほうがいいだろ? そのほうが早く終わるしな」
 嫌がる槙の背を押して、トイレの個室に押し込む。さすがの槙も室の扉を閉めると、周囲を気にしてか口を閉じた。
 そのズボンの先が、質量をもって持ち上がっている。
 あまり強く抵抗できないのをいいことにズボンをずらし、熱を持ったその場所を擦りあげると、熱い息とともに白いものが指先を汚した。
 達した槙の吐き出したものが、指先を濡らす。
 自分以外の者が興奮しているのを見ると、当然のことながら、伊多の下半身もじわりと疼いた。
「あ、悪い。ムラッときちゃったよ。一回だけいい?」
「こ、こんなとこで!? バカか!!」
 達したばかりの槙は、伊多の言葉に即座に反駁してみせた。が、まだ欲の気配の残る吐息が、耳朶を満たす。
「狭いとこなんて慣れてるだろ? ほら、ここは支えといてやるから」
 艦内を思えば広いくらいだ。
 知ったばかりの弱点をゆるりと撫でると、これ以上翻弄されてたまるかというように、槙が慌てて制止をかけた。
「そういう問題じゃない! 場所くらい考えろと……ぃっ、さ、さわるな、ぁ!」
「場所移すのか? コレで?」
 逃げようとするのを抑え、白濁で滑りのよくなった指を槙自身へと絡める。
「〜〜〜!! お、おれはもういいんだ! おかげさまですっきりしました!! だから出てけ!!!」
「全然スッキリしてなさそうだけどな。それに言っただろ、俺もけっこうキちゃっててさ」
「!! そんなことしらん! 自分で処理しろよ!! じゃ、俺は先に出るからな!」
 とうとう我慢できなくなったのか、槙がぐるりと背を向けた。衣服を整えて、いそいそ個室を出ようとしている。
 ……別に二度や三度抜くくらい、恥ずかしがる必要もないだろうに。
「俺達の仲だろ、遠慮するな」
 そう言って後ろから手を廻すと、掌に残ったものが、ちゅくりと微かな音を立てた。
「どんな仲だっ!! はな、せっ、っや、外に、きこえ、るっ!!」
 殺した声に、微かに吐息が混じっている。
 聞こえるとしたら槙の音だろうなぁと呑気に考えながら、伊多はゆっくりと、硬度を持ち始めた前を扱いた。
「槙が敏感すぎるんだよ……声出さなきゃ大丈夫だから」
「ぅん!! こえ、出すなって、言ったって、っ、や、やだ、いやだっ、こんな、とこでっ……離せよっ……!」
 扉に顔を伏せた槙が、しぶとい抵抗を見せる。
 狭い場所は嫌だということだろうか。艦内を思い出して集中できないというのなら仕方がない。
「分かったよ、ここじゃ突っ込まない。その代わり俺のも手伝ってくれるよな」
 すっかり形を変えてしまった自分自身をズボンの上からその腰に軽く触れさせると、今度も槙はびくりと身体を動かして、小さな声で答えた。
「……いやだ。…………ここじゃ、手伝えない」
「じゃぁあとで、手伝えよ」
 仕方がないなと、扉を開ける。
 自分は自分で、とりあえずこれを宥めなければならない。
「分かっ、た……」
 槙の答えに、伊多はちらりとその後ろ姿へ目をやった。
 手伝ってくれるということは、スタンさせるところから、ゴーまで世話してくれるということだろうか。
 ……それは、少し、楽しみだ。