達してからも暫く身体を重ね合わせ、荒い呼吸を整えていた。
 普段の敵娼との行為とは違う、妙な充実感があった。同時に、達するまでの時間が短く感じたのも、気のせいだけではないだろう。
「……余計なことは、言うなよ……」
「…………お互い、な」
 低く交わした言葉に、互いの胸中へ過ぎったことを察して、くつくつと笑い声が漏れた。下肢を意識しないようにしているのも、無言の了解である。
「でも言い訳させろ……ここんとこ全然、暇がなかったからさ」
 笑い交じりに言い訳を口にすると、荒い吐息の間から、低い声が返ってきた。
「やめろよ……こっちは、言い訳しにくいん、だから……」
 それを聞いて相嶋は、再び笑い声を漏らした。
 動いた側からすれば、多少の言い訳は難しくない。しかし揺さぶられ、相手の手で達させられた方からすれば、何を言っても理由にならない。
 ゆっくり上半身を起こすと、身体の下でも、肘をつく気配があった。できるだけ緩やかに、ずるりと自身を引き抜く。
「っ……、」
 吐息が詰まるのを耳にして、息を吐き出した。これ以上何をするわけにもいかない以上、反応させれば、辛いのは自分だ。さりげなく視線を逸らし、片手を伸ばして脱がした衣服を引き寄せる。
「着るか」
 相嶋が尋ねると、「あぁ」と答えた磐佐が身体を起こしかけ、ぎくりとその場で動きを止めた。
「……どうした?」
「……ん、いや……その……」
 はっきりとした答えを返さず、目を泳がせている。何を探しているのかと視線の先をなぞり、その顔へ視線を戻したところで、ようやく相嶋もそれに気がついた。
 サックを付けるのを忘れていた。
 自分にもよほど、余裕がなかったらしい。とはいえまさか、そのまま放っておくわけにもいかない。
「あー……その……掻き出してやろうか?」
 自分が直接吐き出したものである。半ば以上本気で声をかけたが、返事の代わりに、持っていたシャツを引っ手繰られた。
「……風呂行ってくる」
 そう言って膝をつき、立ち上がりかけ、痛いのか違和感を感じたのか数歩ふらついた。
 風呂まで抱えていってやるべきかと立ち上がったが、「絶対付いてくんなよ!」と言われて、しぶしぶ再び腰を下ろす。
 そして遠ざかる足音を聞き、気だるい身体で辺りを整える。――と、ふと思い出した。
 二度目がどうとか……――
 間違いなく、言っていた。思わず口角が持ち上がる。
「……言い出したのは、そっちだよな?」
 聞こえないのを承知で、見えなくなった後ろ姿に呟いた。

 さすがに今日とは言わない。だが、明日は何もしないとも、言った覚えはない。