作戦会議



 職員会議ではないらしい。
 教職員が吸い込まれていった会議室の扉には、妙に達筆な筆跡で黒々と、

 作戦会議中

 である。
 いったいなんの作戦を立てているのだろうか。
 進学率の向上?
 モンスター・ペアレント対策?
 それとも、とうとう教職員全員で対生徒戦線でも張ることにしたのか?
 生徒の誰もがその文字をいぶかしんだ。
「作戦会議中だって」
「覗いてみる?」
「覗いてみよう」
 所詮この程度。中学生の行動など知れている。若さに任せて暴走するのは、全国の中学生が取る画一的行動と言って間違いない。
 彼らはすぐに行動を起こした。



 最下級の一年生は正攻法で、ドアに耳を押しあてた。
 駄目だった。
 伊達に中学高校の校則と窓を破ってまわり、大学ではバリケードで闘争に明け暮れた敵ではない。
 絶妙に、気になる程度に、何を話しているのか分からない程度に、ひそひそという声のみ学生たちに届く。
「駄目だ!」
「これではモヤモヤがたまる一方だ!」
 一年生、撃沈。

 中間管理職こと二年生は、ドアをわずかに開けての盗み聞きに着手した。
 駄目だった。
 この校舎で一年以上、遅刻と宿題忘れを指導し続けてきた彼らは、己の教え子の特性を熟知していた。
 ドアを開けた瞬間、そこにいたのは、恐怖政治で鳴らす野球部顧問である。
「ひいっ!」
「逃げろっ!」
 二年生、ひそひそ声でその場から敗退。

 学生のドンたる三年生は、……――彼らは落ち着き払っていた。
 それもそのはずである。
「そろそろ職員会議が終わるぞ」
「よし、札を差し替えてこい」
「ラジャッ!」

 作戦会議中

 その札をかかげたのが、ほかでもない三年生なのである。

 文化祭で使ったで店の片づけをしている最中、三年生の目にとまったもの。
 それこそが、この≪作戦会議中≫と記されたかまぼこ板であった。
 こんな面白いものを、使わない手はない。
 そこで彼らは当初、様々な手を考えた。
 しまった男子トイレの扉に。
 締め切った教室の窓に。
 教室で飼っているカブトムシの虫籠に。
 しかしどれもしっくりこない。
「なにか……なにかそれっぽい利用法はないものか……」
 そう煩悶する彼らの目に映ったもの。
 それこそが、

 職員会議中

 五文字を彫った札だったのである。
「これだ……!」
 職員会議を作戦会議に変えること。
 会議室最寄りの教室を陣取る三年生には、容易なことであったのだ。



「…………なんてことになりませんかね?」
「……ならないでしょう」




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