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弱小大名
毛利元就
vs 下剋上大名
陶晴賢
・
毛利元就の息子は毛利隆元
・
毛利元就の家老は桂元澄
・圧倒的に毛利方不利
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元就、元澄に提案
・
元就「裏切ったフリして、陶を油断させてくれんか」
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元澄了承、偽の裏切り状を陶に郵送
・
陶晴賢「あの桂元澄が、そう簡単に元就を裏切るかい」
・
陶晴賢「元澄、元就を裏切る気があるなら、宣誓状出せYO」
――西暦1555年。
厳島合戦前
神文起請
「気が乗らんなら、そう言うてくれ」
敵を騙すためとはいえ、味方や神をも欺く元就の遣り方に、信心深い元就自身が一抹の不安を抱いていた。
桂元澄が元就を裏切ることは、確かに必要であったが、同時に危険を伴った。もしもこの件が味方に漏れれば、誤解を抱いた若い衆は、叛臣桂家に誅殺の刃を向けるだろう。
元就を挟撃しようという元澄の偽書状は、陶の幕下にも波紋を呼んでいる。神仏起請の要請は、現形の真贋を見極められないでいる証左だ。
「そないに危ないことを、わしがやらずに誰がやる。だいたい若い衆の誤解がなんじゃい、もう話は向こうに通してしもうたわ。この首ひとつ、元就にくれようわい」
豪快に笑う武者の肩に、元就は少し俯いた。かつて助けたその命を、自らの策略の為に失うことは、彼の本意とするところではないのだ。
「それとも元就、お前はこのわしを信じられんのか」
「信じとるからこそ、元澄に頼むんじゃないか」
笑って見せたが、やはりどこか力がなかったものか、元澄は再び豪快に笑った。廊下を見張っていた隆元が、何事かと少し顔をのぞかせ、ふたたび周囲の見張りにもどった。
元澄は難しい立場にあった。調略の上と言えど、表向きは裏切りである。味方に知られるわけにも、ましてや陶に悟られるわけにもいかない。そしてその陶の信用を取り付けるためには、神仏に誓うことを迫られていた。
元澄が熱心な仏教徒であることを、元就は先刻承知していた。彼が偽の誓いを立てるのを当然躊躇うものと、元就は信じていた。
「……じゃがのう、元澄。今度の相手は神仏じゃぞ」
「それでもやれ言うんじゃろうが」
心配の色を隠せない元就に対して、元澄はもう起請文の決意を固めている。躊躇いはなかった。
「厳島で天下分け目の合戦をしよう言う毛利元就が、何を躊躇うておるんじゃい。陶の若造をだまくらかすんは、わしに任せとけ」
そう言って、元澄が陶晴賢からの書状をぱさりと叩いた。
毛利の中でも有力な家臣であるからこそ桂の名が力を持ち、挟撃が真実味を帯びるからこそ元澄の現形が陶を動かす。そして陶は策略に乗って、きっと厳島へ渡る。
そのときが、勝負だ。
「神仏は確かに大事じゃが」
元澄が言って、書状を床へ抛った。
「……書いちゃろうじゃないか、神仏起請。桂元澄は毛利元就に、命も信仰も預けちゃる」
「……ありがたい」
一言そう言って元就は、年の割りに真っ直ぐ伸びた背を、深く下げた。