周囲の様子には、幼い頃から敏感であった。 高貴な血筋たる父親の周囲には、昔から高官や政治家が頻繁に出入りしていた。彼等を相手に訓練していたようなものだ。だからか相嶋は大人になった現在でも、接してくる相手がどんな心持か、何を期待し何を考えているのか、容易く分かる。 加えて、国内でも広く知られた事件の殉職者が彼の友人であることは、どこからか知れ渡っていた。そこからくる相手の戸惑いに気付けないほど、鈍い感性ではない。 言葉を探し、「君の友人が、あんなことになってしまって、気落ちしていないか?」などと、無難な慰めを口にする者もいた。わざとその件に触れないように、意識している者もいた。 (皆、気遣ってくるもんだな……) そんな扱いが必要なほど、気落ちして見えるのだろうか。 腫れ物に触るような、奇妙な扱いを受ける。 そんな自分を、どこか他人事のように感じはじめていた矢先、突然実家に呼び出されたのである。 「先日、お前の友人が殉職しただろう。帰らない者を待つというのは、どんな気持ちだ」 公爵たる父親に尋ねられたとき、相嶋は思わず首を捻った。 「どんな……?」 抱き上げられた記憶も、育てられた覚えもない。父との間には常に距離があった。 それでも彼は身内である。だからこそとも言える無遠慮な発言に、なぜだか引っ掛かりを覚えて、相嶋は咄嗟に言葉を探した。 「……別段、普段と変わりません」 気付けば自身の口は、そんなことを言っていた。 「生前も、毎日会っていたわけではありませんから。顔を見なくなっただけで、何も違いはありません」 「ふん、そうか。……出て行っていい」 彼の父親は、存外あっさりと引き下がった。 手でかるく追いやられ、一礼をして、その前を下がる。 あてがわれた客室に戻りながら、ぼんやりと考えたのは、先程自分が口にした答えだった。 言葉がそのまま、事実だった。 生前とて、毎日会っていたわけではない。彼が死んだというが、その身体が帰ってきたのを見てもいない。 彼が死んだと思われる場所は、すべてのものが原型を留めないまでに、完全に破壊されていたという。 誰がどこに立っていたのかを推測し、僅かにこびりついたものを遺体と呼び、血のついた遺物らしきものを荼毘に伏す。それを、報告として聞かされても、知っている姿とは結びつかないのである。 (だって帰ってきたのだって、手の平に乗るような白木の箱一つだぞ……) 考えながら扉を開ける。 誰もいない、無造作で無機質に広い部屋は、かつて彼と泊まったことがあった。 「だって、なぁ……」 誰もいない寝室へ戻り、寝台に横になって天上を眺め、相嶋はぽつりとつぶやいた。 「ただ会えないだけなんだ。んなの、いつものことだろが。……なあ?」 |