辺りを見回していた元就が、おもむろに顔を戻し、傍の船頭に声をかけた。 「この浦の名は、なんと申す」 「は、この浦は包ヶ浦と呼び、あの山は博奕尾と」 「ほう、『つつみがうら』に、『ばくちお』……とな」 したり顔で髭をしごく元就をちらりと見て、児玉就方がぼそりと呟いた。 「ご存知であろうに」 「それが大殿のやり方じゃ」 兄である児玉就忠が、その隣で笑っている。案の定元就は、船頭の返答を聞くやいなや身を翻し、自軍に向かって声を張り上げた。 「聞いたか皆の者! ここは包ヶ浦、あれが山は博奕尾と申すそうじゃ! 鼓も博打も打つことにあやかる名、此度はかならず我らが陶を討つ!」 「……なるほど」 児玉就方が頷いた。 元就の声を聞くや否や、それまでは無理に静かにしていたものか、本陣が大きな歓声をあげたのだ。 負けじと元春率いる別働隊が声をあげ、辺りにこだましている。風雨の音がなければ、その声は陶へ届いたかもしれない。児玉就忠が、恩恵をありがたがるように天を振り仰いだ。 |