「……とはいえ、かなり若殿を心配しておられると見える」 「陣中は、まるで火が消えた真冬の囲炉裏傍のようで」 「皆、若殿の力を知らぬのであろう」 そう言って、赤川元助が少しく笑った。陣内でも明らかな隆元派につく赤川元助には、隆元が一人でも十分に攻撃を加えることができると見えていた。 攻めきることが難しくとも、副将自らが出ていくことで、十分に士気の鼓舞にはなる。 あまりに隆元を好きであるための反応に対して、赤川元助は冷静に状況を判断していた。 「それで……隆元様の周囲で小競り合いが続いたために……志道広良殿が」 考えにふけっていた赤川元助は、児玉就忠の低い声に、ハッと意識を引き戻された。 「何か――……やらかしましたか、大殿その他が」 その言葉に、児玉就忠は静かに天を仰いだ。 「厳島大明神に、戦勝祈願をしてはどうじゃ」 元就にとっても父に近い志道広良の言葉は、その場の雰囲気を一挙に明るいものに変えた。 「間違いなく陶を討ち果たし、兄上を喜ばせる、と!」 「兄上の武運長久を祈りましょう!」 水軍を持つ隆景と、人一倍信仰心の篤い元春が、諸手を挙げて賛同する。討伐相手の陶晴賢は元春の義理の兄でもあったが、実の兄に比するまでもない。 元より信仰心も篤く、神主である棚守房顕と懇意にしている元就も、まさに首を縦に振ろうとした。 その瞬間だった。 脳裏に、あの島がつと過った。 そして狸のような神主の笑みが、瞬時に思いだされた。 厳島神社最大の権力者、棚守房顕の狸面が。 『かつて厳島で、戦があったことがござりまする。ごぞんじかな? いや、知らぬで無理もない。まぁいつか、奇襲を要することがござれば参考になされよ。杉の浦より上陸した多賀谷氏が……――』 そうだ。 あの島なら……――あの方策なら、勝てる。 元就の目が、輝いた。 「……――厳島じゃ!」 |