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「大願寺の円海殿が、陶の家臣どもに書状を書いたらしい」 細作と呼ばれる忍者集団から、そのような知らせが入ったのは、その年の晩夏である。 「何と書いてあったんじゃ」 知らせを聞いてやってきた桂元澄が、ひたいを寄せる元就と児玉就忠のそばに、どっかりと腰を下ろした。 「書状を見るか?」 「いや、どうせ分からんからな」 元就が書状をさしだすのに、桂元澄が軽い口調で押しかえす。児玉就忠が代わりにうけとって、書状にじっと目を落とした。 「……で、児玉就忠よ。なんと書いてあるんじゃい」 「『ご奉書、拝見いたしました』、と。……陶晴賢が宮島衆に要求した安堵料、いくらにするかは、どうやら商人が集まって決めるということじゃ」 写しの書面に目を走らせて、児玉就忠が説明した。 言葉の後をついで、元就が桂元澄にむきなおる。 「近々宮島で、菊花の祭りがとりおこなわれるじゃろう」 「秋の法会のことか?」 「そのときに、商人たちが宮島に集まるそうな。その機をとらえ、相談すると言うておるらしい」 それを聞いて、桂元澄が呆れたように身体を逸らした。 「なんじゃい、それだけか。陶晴賢が商人から金を巻き上げはじめたゆうんで、てっきり何か起きたんか思うたぞ」 「……その兆候は、少しばかり見えてきたがな」 桂元澄の言葉に、書面を見ていた児玉就忠が、小さな声で呟いた。 それを聞いて桂元澄と元就が、少し驚いたように振りかえった。 「……児玉、どういうことじゃ」 元就が顔を寄せて、囁くように尋ねる。桂元澄も顔を寄せるのをまって、児玉就忠が書面を床に置き、そっとその一部を指差した。 「ここでござりまする。塩飽の船が不慮に遭うと……」 それを見て、元就がハッと顔をあげた。 「そうか……そうなったか。安堵料の一件以来、どうなるか思うておったが」 「はぁ? 不慮ゆうたら……事故か?」 「そうでござりますな。村上の旗は、芸州厳島祝詞とあります。あれ以来、やつらも困窮しておることは想像にかたくござりません」 「モノモウシ? やつらとは誰じゃ?」 「陶晴賢殿、無謀なことをなさるものじゃ……決断せねばならぬときが、近付いておるな」 「なんじゃ? おい、どういうことか説明せんかい!」 二人が何を言っているのか分からず、とうとう桂元澄が声をあげた。 その声に元就が振りかえり、まじまじと桂元澄を見つめた。 「……元澄よ、お主に弟ほどの素直さがあればのぅ……」 「あいつのことはどうでもいい! 二人でこちゃこちゃと、何を話しとるんじゃい! わしにも分かるように説明してみぃ」 そういって、桂元澄がふんぞり返る。 「自慢できることでもあるまい」 元就が小さく呟く。その横で、児玉就忠が人のよい笑みを浮かべた。 「村上水軍が厳島で警固米をとっておったのは、前に説明しましたな」 「うむ」 「しかしその権利を陶晴賢が奪い、村上水軍はいま、収入源がない」 「そうじゃったな」 そう言って、桂元澄がふと考え込んだ。その先を助けるように、児玉就忠が言葉を続けた。 「村上水軍の旗には、『芸州厳島祝詞(ものもうし)』とある。……やつらの収入は、おもに厳島だということです。収入源が陶晴賢に奪われて……――」 「村上水軍どもが賊船化した、ということか……」 「そういうことじゃ」 元就が言葉をついで、床の上の書状にちらりと目をやった。 「陶晴賢殿、村上水軍を敵にまわしたぞ。さて、我らはどうしてくれようかいのう……」 「……――」 「ところで児玉就忠、このことをみなに伝えておいてくれぬか」 「え、私がでござりまするか?」 「あぁ。福原貞俊と桂元忠が言うておったのじゃが、そなたの説明は分かりやすいそうじゃな。この事実を、みなに徹底しておいてくれ」 |