願い事



 彼女は、俺の願い事ならなんだって叶えてやれると、口癖のように繰り返していた。
 始めこそ何かの折にジュースをおごってもらうばかりだったのだが、やがて俺も、そんな彼女を利用することを覚え始めた。 すぐに、俺の良心は底をつく。そうなれば、あとはもうただの寄生虫でしかなかった。
 彼女は、俺の行動なら何だって受け入れた。
 浮気がばれたときも、あなたのやりたいことなら、と笑って許した。 車が欲しいとつぶやけば、あなたのほしいものなら、とすぐに高級車をプレゼントしてくれた。
 だから、俺は彼女を……そして自分を信じて疑わなかった。

 だから……俺はいま、自分がどうなっているのか、まったく理解できないでいる。
 じんじんと痛む後頭部だけが、これが現実であると告げている。
 体が動かない。視界がかすむ。見えるもの全てが揺らめき意識が遠のく中で…… ただ、先ほど呟いた自分の言葉だけが、頭の中をぐるぐると回っていた。
『……最近さぁ、何をやってもうまくいかねーし……死にてーなって思うときがさ、あんだよな……』




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