晴れた心
ある晴れた日。
屋上には人影二つ。
昼食を一緒に摂る槙と伊多の二人だけ。
他愛もない話をしながら青空の下弁当をつつき、昼休みを過ごしていた。
「なあ、槙」
先に食べ終わった伊多が、ひょこっと槙の顔を覗き込む。
「ん?」
「食い終わったらさ、俺の話ちょっと聞いてくんない?」
「?いいけど」
改まって何を。そう不思議に思いながら、槙は弁当の残りを片付けにかかった。
「で?話って何だ」
弁当箱をしまいながら、自分の向かいでそわそわしている伊多に目を向ける。
「あ、うん。あのさ、」
もじもじと、何やら言い淀んでいた伊多が、不意に顔をあげ、切り出した。
「俺、槙のことが、好きみたいなんだ」
―― 一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
「え…?」
「ずっと考えてたんだ。最初はさ、普通に友達だと思ってたんだ。それがさ、少しずつなんか違う感じがしてきて…」
頭掻き掻き話す伊多の姿に、槙は今言われた言葉を反芻していた。
伊多が、自分のことをすき、なんだと。
自分も伊多のことは好きだ。でもそれは友達として……あれ?
そう、自分も、伊多に対する気持ちに違和感を感じていた。
伊多が寄せる好意がとても心地よく感じている自分がいた。
もしかして、自分も…?
「俺も槙も男だろ?でもさ、それってたいした問題じゃないなーって思ったんだよな。女の子も好きだけど、もっと槙が好きなんだって、もうさ、一回気付いたら変わんないんだ」
伊多は結構モテる。無邪気で明るくて、ムードメーカーなところが人気だ。仲のイイ女の子も結構いる。
それなのに、なんで男の自分を…
「だからさ、ひとりで悶々してたって仕方ないなって思ったからさ、とりあえず言わなきゃって思っ」
「伊多」
槙の声に、伊多が言葉を切り、こちらを見つめた。
「お前なら可愛い子、いっぱい友達いるだろ。なんで俺?」
「え―…仕方ないだろ、俺は女の子より槙がイイんだから」
そういうと伊多は、向かいに座る槙の手をとりぐいと抱き寄せた。
「俺は、槙が好きなんだ。大好きなんだよ。槙は、男に好かれたら、気持ち悪い…?」
抱きつかれても、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろその体温が心地よかった。
そして、男女じゃなく、自分のことが好きなんだと告げられて、槙も伊多に対する気持ちがはっきりした。
「ううん、イヤじゃない…」
自分も、『伊多』が好きなようだ。
そしておもむろに抱き返す。
「槙…?」
「伊多に言われてはっきりした…俺も、お前のこと、好き、みたいだ…」
照れ隠しに、ぎゅっとしがみついた。
「……。 え?え!?そ、それって、…わ、うそ…俺達、両想いって、こと!?」
伊多の上ずった声がおかしくて、槙は小さく噴き出した。
「そうなるんだな」
「うわー、ど、どうしよう…すっげうれしい…」
そのまま舞い上がっていきそうな伊多の様子に、槙は一度身体を離し、その手をとると、伊多の顔をじっと見つめ問いかけた。
「ホントに、俺でいいのか?」
槙の問いかけに、伊多は一瞬キョトンとしたが、手を握り返しにっこり笑った。
「俺から告ったんだ。当たり前だろ。何回でも言ってやるよ。俺は槙が大好きなんだ」
素直で、屈託のないその言葉は、ものすごく伝わりやすくて、伊多そのもののような気がした。
「ん…ありがとう…俺も、好き、だから…」
「な、キスして、いい…?」
「ん…」
軽く触れるだけのキスが、何だかくすぐったくて、でも心地よくて。
お互いにそう思ったのか唇を離し、数秒顔を見合わせた後、声をあげて笑いあった。
ある晴れた日の昼休み。
屋上には二つの影と笑い声。
伊多槙告白話。
本編では意地っ張りな槙ですが、こっちは年齢下がるんで、
案外素直かなと。
なんとなく、高2の中頃かなーとか思ってるんですが…
ま、天然無邪気な伊多は変わらないので、
不憫な槙、ということは変わらないかな(笑)