※きなうしさん宅「雨に哭く」の後日談…のさらに後日妄想






「……あの、さ……俺が、他の男にヤられたって聞いて、気持ち悪くなかった……?」
「え?」
 彼の言葉に、顔をあげた。
 同性に無理やり犯されて、ふらふらの身体で訪ねてきた夜のことを、彼は言っているらしい。
 テレビで、関係のある内容でも流れたのだろうか。
 ……うなじに顔を埋めるのに夢中で、テレビの内容をまったく聞いていなかった。
「知らないヤツのを、出してなんて言われて、……嫌じゃ、なかった……?」
「……そりゃ槙が、あんなこと頼まなくちゃならなくなったこと自体は、すごくイヤだったけど……出してって言われたのは、別に嫌じゃなかったよ。だいたい槙の方が、もっと嫌な思い、しただろ?」
 そう言って、優しく後ろから抱き締めなおす。
 彼の手が伸びてきたので握り返し、掌で体温を分け合った。
「……っ、身を守れなかったのは俺だし、一人で家帰って、風呂入れば良かっただけなのに……わざわざお前んちに来て……悪かったって、思ってる」
「俺は、……良かったと思ってるよ。あんな、ぼろぼろな状態のお前がさ、一人で自分ちに帰って、風呂入って、一人で我慢するなんて、絶対嫌だ。真っ先に俺んところ来てくれて、よかった」
「……それだって、もともと伊多には関係なかった話だろ……、あんなの見たら、誰でも気持ち悪いと思うし……。なんで、そんなふうに優しいんだよ……」
 首筋に顔を寄せると、彼の香りが鼻腔をくすぐる。
「他のやつには、あんなに優しくないよ。……それに、槙だって痛かったよな。俺だろうと誰だろうと、人に触られるのだって、嫌だったし、怖かっただろ」
 握った手を軽く振って、抱き寄せる腕に力を込めた。あたたかい。
 従順に体重を預けていた身体が、振り返るように身をよじり、するりと首元へ擦り寄ってきた。
「……あの、な。本当言うと、風呂貸してもらったときは、自分で出そうとも、思ってた。でも、自分でやるのすら怖くて、気持ち悪くて……」
「……うん」
「でも、……お前に出してもらったとき、全然怖くなかったんだ」
 内緒話でもするように、首元で吐息が漏れた。
 そっと頬を寄せてみると、体温がそっと顔に触れた。
「……幸、」
「感触が残ってるのがどうしても嫌で、忘れたくて、抱いてって頼んだけど……終わったあとは……裕也で、一杯だった。身体は疲れてんのに、どうしても、裕也が欲しくて仕方なかった」
「……それでも、痛かったよな」
 腕を挙げて、髪に触れた。柔らかい。
「……それより、嬉しかった。距離置かれても普通なのに、すごく大事にしてくれて、……相手がお前で良かった。他の奴じゃ絶対だめで、お前しかいないって思ったんだ……」
「……ありがと。……幸がそう思ってくれると思うと、……なんか、照れるな」
 くすりと笑う。二人の笑みが、互いの頬に触れた。

「……でもな」
「……ん?」
「俺にも譲れないものはあるんだ。……相手がお前でも、他の誰でも、絶対に譲れない」
「……そ、」
「そんな悲しい顔してもダメだ! やっ、……野菜をそんなことに、使えるか!!」
「食べればいいんだろ。俺食うよ?」
「そういう問題じゃない!! 農家のおじさんに謝れ!!」




お前やるべきとこ先に手ぇつけろよ
……何事もなかった振りをする。