「……い、……おい」
 強く揺さぶられ、強引に意識を引き戻された。
「えっ、あ……?」
「大丈夫か? ひとまず起きろ」
 再び軽く揺さぶられ、うっすらと瞼をあけた。
 覗きこんでくる相嶋の見慣れた顔が、気遣うような表情を浮かべている。
「すごい汗だな……」
 そう言いながら、相嶋の手が額に伸ばされた。汗で張り付いた髪を幾筋か、指先でかきあげられた。
 先程までの光景が悪い夢だったと分かり、とたんに混乱が霧散し、焦りと喪失感の残滓だけが残った。
「うなされてたぞ。いま水持ってきてやるよ、ちょっと待ってろ」
 そう言って、相嶋が立ち上がりかける。
 瞬間、喪失感が肥大化して、思わず手を伸ばして腕を捕まえた。
「や、水は、……いいっ……」
「たった十歩だろ? 大丈夫だから手を離せ。な」
 どんな夢を見たのか尋ねないのは、気遣いがそこにあるからだろう。諭すような声音に構わず、腕に力を込めて引き寄せる。
 そのままぐいっと前身頃を開き、乱暴に口を寄せると、宥める色が声音のなかに強く滲んだ。
「……おい、待てって。溜まってるにしてもな、さすがにそんな状態で、無理はすんな」
「たまには俺に付き合え……お前が動かなきゃ、俺が動く。なんなら無理矢理ヤッてもいんだぞ」
 低い声で返しながら、一つ二つと吸い上げる。痕を付ける気はなく、素肌に触れる安心感を求めていたと言ってもいい。
 暖かさに汗ばんだ額を押しつけると、伸ばされた相嶋の腕が、磐佐の顔を押し上げた。
「だから、んな今にも死にそうな顔で、……ったく」
 視線がぶつかる。動揺を浮かべているのか、それとも怒りの色が強いかと考えたのに、そこにあったのはからかうような薄い笑いだった。
「……あー嫌だなー、明日早いのになぁー、でも仕方がないなー……というわけで、嫌々一肌脱いでやる」
「……その、…………悪い」
 自分の咽喉からもれた声は、思っていたより低かった。
 体勢を整えて、相手が咽喉の奥で笑う。
「まったくだ、……今日は特別、マグロでいいから。次回は全面協力しろよ」
「……馬鹿言ってろ」
 呟きかえしながらふと咽喉の渇きを覚え、(あとで、水持ってこよう)、そんなことを考えた。




最初は無茶するつもりなかったのに、結局バテるまでヤりますた。