脱衣所と風呂場を繋ぐ扉が、背後で重く開いた。その音を背後に聞いて、磐佐は肩越しに振り返った。
「ゆっくり風呂に入るのは久し振りなんだぞ、邪魔すんなよな」
「んー、手伝いに来たぞ」
 笑みを含んだ声と、後ろ手に扉を閉める音が風呂場に響く。
 溜め息をつき、水が飛び散っても構わないのだろうと、背中の相嶋に遠慮せず頭から湯をかぶった。
「背中なら自分で流せるって。あぁもう、ちょっと待ってろ、すぐ出るから」
 そう言った途端、「動くな動くな」という声とともに長い指が伸びてきて、ひょいと洗面器を奪われた。
 シャツが素肌に触れて、磐佐のほうが少し怯む。しかし当人は、衣服が濡れることなど気にも止めていないらしい。突然腕を伸ばし、柔らかく脇腹を伝って、その手が胸をするりと撫でた。
「っ……なんだ突然っ」
「だから言っただろ、手伝ってやるって」
 長い指が、慣れた様子で下へとおりる。
 指先が器用に絡まると、それまでの性急さを感じさせない緩やかな刺激を受けて、芯があっというまに頭をもたげた。
 得たりとばかりに筋を撫であげられ、快感の波が背筋を駆けあがる。
「やっぱりな、出てるあいだ一回も抜いてないんだな?」
「……やっ……やめろって……」
 息が浅く荒くなる。
 抗おうとしたが身体は素直なもので、足腰どころか、両手にも力が入らない。
 咄嗟に発した声さえ吐息が混じるものだから、思わず唇を噛んで吐息を堪える。湯船とは違った粘性を感じさせる音が、いやに大きく響いて耳朶を犯す。
 まるで煽るように、いや実際煽っているのだろう、なんども性急に扱かれてすぐに限界が訪れた。
「っ、く、…………っ」
 抗いきれず咽喉元を逸らした。足に力が入り、背筋がびくんと震えた。
 ……しかし、そこまでだった。
 くると思っていた波が、襲ってこない。下半身を、苦しいまでの快感が覆ったままだ。
 思わずうっすらと目を開け、脇から廻された相嶋の手が、硬く根元を握っているのに気がついた。
「な、……んで……」
「ん? 何か言いたいことがあるのか?」
 笑みを含んだ声に、思わず顔を背けた。
 途端、再び動き出した手が、容赦なくその限界を押し上げた。
「っ……、……!」
 無意識に腰が動く。鈴口が震えたのを感じたが、欲求を達することは阻まれて、痛いほどの快感だけが幾度も突き上げるように身体を走る。
 風呂の温度だけでなく、身体が熱い。
 殺しきれなかった自分の吐息が、水場の壁に跳ね返って、身体を一層敏感にする。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと言えよ」
 そう言いながら先端を押し潰されて、思わずその腕に手を重ね、縋るように背中を預けた。
 頭の中がぼうっとして、もう何も考えられない。とにかく早く、解放して欲しい。
 漏れた声は、自分で思っていた以上に絶え絶えで、ありありと情欲を孕んでいた。
「もっ……たの、むっ……」
「ん?」
「…………っ……ィッ……か、せて……くれっ」
 聞いた瞬間、相嶋がにやりと笑った。
「仕方がない、な」
 そして、相手の言葉に最大限に応えるべく、その首筋に唇を寄せながら、一気にその手の中のものを追い上げた。

 荒い息で上半身を起こしながら、磐佐が洗面器を取り返して、勢いよく湯をかけた。
「……で、結局お前は何しに来たんだ!!」
「いや、だから、手伝いに来たんだ……けど、木乃伊取りが木乃伊だな、これは」
 そう言いながら相嶋が、素早くシャツのボタンをはずす。
 濡れたシャツを剥ぎ取りながら、振り返ってきたところに、磐佐が勢いよく洗面器を被せた。
 何を手伝う義理もないが、逃げ切れるとも思えない。
 入れ違いざまに相嶋が、「あれっ、続きは?」と不満気な声をもらす。
「せめて出てからな」
 なんか着てこいよと釘をさすと、相嶋が「布団を敷いて待ってろ」と笑ってこたえ、思わず拳骨をその脳天にくれてやった。






 もっ……無理っ……!(管理人が)
 案外すんなりなのは、お互いに溜まってたからだと思われます。
 これならきっと最後まで付き合ってくれる(爆)。