「まぁ安心しろ、二度とあんなことはやんないから。……おっし、今度の休みにゃそっちの店に行くぞ、付き合えよ」
 そういって席を立ちかけた彼の言葉に、気付いたときには手を伸ばし、腕を捕まえていた。
「待っ……」
「……まだ言いたいことがあるのか?」
 そう言われて、言葉に詰まった。
 言いたいことなら山ほどあった。しかしそれは、本当に自分から口に出してもいい言葉なのか。
 伝え方を探しあぐねている様子を、どう受け取ったのかはすぐに分かった。
 彼は一つ溜め息をついて半身で振り返り、少しく陰った笑みを見せた。
「……忘れたわけでも、有耶無耶にしようとしてるわけでもないさ。お前が贖罪を求めるって言うなら、」
「食材……いや、そうじゃなくてだな」
 不穏な気配に、慌ててその先を遮る。このまま穏当な言葉を探していたのでは、伝えたいことの半分も伝わらないに違いない。
 以前から、知らないわけではなかった。目の前の男は、自己完結の傾向が強いのだ。
 今回に限って言えば、彼の中で完結したものは、大きな齟齬がある。どうすればそれを伝えられるのか、手さぐりをするように、ちらりと相手の顔を見遣った。
「そうじゃねんだって。……だからその、……もう、やらないのか」
 ぼそぼそと尋ねると、相手は不思議そうに目を瞬いた。そしてくすりと笑みを漏らし、今度は陰りのない笑みを見せた。
「そう言ってるだろ? その点は安心しろ。どうしても信じらねーんなら、しばらく俺と二人っきりにならなきゃいい。さっそく二人っきりだけどな、その点は謝る」
「じゃなくてだな」
 再び言葉を遮って、目を泳がせる。なにもかもはっきりと言わなくては、思いこみの壁を打破するのは難しいとは。
 できれば自分から口に出したくはなかったが、恥ずかしいだの何だのと尻ごみをして、決定的な勘違いをしたままにしてはおけない。
(面倒くさい奴め)
 ……――そう思った瞬間、うだうだとした気持ちがはじけ飛んだ。
「求められること自体には、ヤな気持ちはしねんだよ。痛いのは……得意じゃないけどな、そればっかりでもないなら許す。要はお前の腕次第ってことだ、自信があるって前にほざいてたろ。お前が、二度と俺とはヤりたくねぇって言うなら話は別だ。ただ二回目があるっていうんなら、俺はそれでもいいって思ってることだ。それだけは言っとくからな」
 低い声で何気ないことを伝えるように、一息に言いきった。口に出してしまうと、気恥ずかしさがふっきれた。
「……癖になったのか?」
「馬鹿言え! そういうことを言ってんじゃねえよ、少しは察しろ!」
 腹立ちが先立って、思い切り頭をはたく。
 彼にそういうつもりがないのなら、ものすごく恥ずかしいことを言ったということにはなる。それでも、変な勘違いをされるよりはよほどましだ。いやもしかしたら、すでに勘違いされているのかもしれないが。
「二度とあんなふうにしないんなら、お前の相手だったらしてやるつってんだ!」
 その言葉に、はたかれて俯いていた目がちらりと覗いた。
 そうしてしばらく様子を伺い、やがて彼は再び目を伏せて肩を震わせて笑い、低い声でぽつりとつぶやいた。
「……言ったな」
「おっ……おう」
「でも俺から行くわけにはいかないからな……お前から来い。次の非番は、来週頭だ」




 というわけで多分2回目は、やらないか的なそういうのを言わされゲフン